監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
配偶者が不貞をしたときの不貞慰謝料は、不貞した配偶者とその相手方のいずれに請求することもできます。
しかし、離婚しない可能性がある場合には、配偶者から慰謝料を支払ってもらっても家族の資産が減るだけという結果になりかねないため、不倫相手に対してのみ請求するという選択を取ることが多くあります。
そこで、今回の記事では、不貞相手に対する慰謝料請求する方法や注意点等を解説いたします。
目次
不倫相手に慰謝料請求できる条件
不倫相手に慰謝料請求できる条件は、①不貞行為(不法行為)の存在(婚姻関係を侵害・破壊に導く可能性のある行為の存在)、②不貞相手の故意・過失(不貞相手が配偶者が結婚していることを知っている若しくは知らなかったことに落ち度があること)、③①の不貞行為により損害が発生したこと(不貞行為により婚姻関係が侵害され精神的苦痛を被ったこと)が必要です。
肉体関係があった
不貞行為の典型的な行為は、性行為・肉体関係であり、実務においては性行為・肉体関係の存否が争点になるケースが多いです。
ただし、現在の実務において、不貞訴訟における保護法益は、「婚姻共同生活の維持という権利又は法的保護に値する権利」と考えられています。
そのため、肉体関係を伴わない行為であっても、婚姻共同生活を侵害・破壊に導く可能性のある行為は加害行為(不貞行為)と評価される可能性があります。
例えば、「愛してる」「逢いたい」等の愛情表現を含むメールを繰り返し送信している行為等でも、婚姻共同生活を破壊に導く行為として不貞行為(不法行為)と評価される可能性はありますが、肉体関係が存在する事案と比較すると低額の慰謝料しか認められないことが多いです。
客観的な証拠がある
民事訴訟のルールとして、相手が不貞行為を否定した場合、慰謝料請求する側が、客観的な証拠により不貞行為を証明しなければいけません。
裁判所は、真実を認定する機関ではなく、慰謝料を請求する側が不貞行為を立証できなければ、不貞行為の事実は認められず、その結果、慰謝料請求も認められなくなるということです。
したがって、不貞行為を立証する客観的な証拠を収集することが極めて重要になります。
不貞行為を立証する客観的な証拠は、探偵の調査報告書(ラブホテルに入室している写真)や不倫を認めている録音、ドライブレコーダーの記録、LINEや写真等が挙げられます。
ラブホテルに入室している探偵の調査報告書等、一つの証拠で決定的といえる証拠もあれば、多数のLINEメールや写真等の証拠を組み合わせることにより、不貞行為を立証する必要が証拠もあります。
時効が過ぎていない
不倫の慰謝料請求の時効は、不貞行為および不貞相手を知ったときから3年又は不貞関係がはじまったときから20年になります。
上記期間が経過した場合、不貞行為が認められたとしても、時効により慰謝料請求が認められないという最悪の事態が発生することになりますので、時効期間を徒過する前に訴訟提起する必要があります。仮に、時効の直前に慰謝料を請求することになった場合、内容証明郵便で催告すれば、6ヶ月間時効の完成が猶予されますので、その間に訴訟提起の準備を行うこともできます。
故意・過失がある
不倫相手が既婚者であることを知らなかった場合、または注意していても気付くことができなかった場合は不倫相手に慰謝料を請求することができません。
不倫相手に慰謝料請求できないケース
実務において、不貞相手から配偶者がいることを知らなかった、知り得なかった(故意・過失がない)という反論がでるケースがあります。
例えば、配偶者がアプリで未婚者であることを偽っていた等、配偶者が不貞相手を騙していたような場合、不貞相手には不貞行為を行っている故意や過失がなく、不貞相手対する慰謝料請求が認められないことがあります。
また、婚姻関係が破綻していると思っていたという反論もよく見かけますが、この場合配偶者が言葉巧みに騙しているという特殊な事情がない限り、不貞相手の過失まで否定されることは殆どありません。
離婚しない場合、不倫相手だけに慰謝料請求できる?
離婚しない場合、不貞相手に対して慰謝料請求を行うこと自体は可能です。
ただし、慰謝料の算定においては、婚姻関係が侵害された程度(破綻したか、継続しているか)も一つの重要な考慮要素ですので、離婚した場合より低額の慰謝料になる可能性が高いです。
また、不貞慰謝料は、本来、不貞をした配偶者と不貞相手の2人が共同で負うべきものですので、
不貞相手には、不貞をした配偶者へ対し、責任負担分を請求する権利があります(求償権)。例えば、不貞慰謝料が200万円で、負担割合5:5のケースにおいては、不貞相手から不貞をした配偶者に100万円を求償することが可能です。
したがって、離婚しない場合に不貞相手に対してのみ慰謝料を請求する場合、求償関係の問題を意識した解決を行う必要があります。
不倫相手に請求する慰謝料の相場は?
不倫相手に請求する慰謝料の相場は、①離婚した場合200万~300万円、②離婚しなかった場合50万~100万円程ですが、婚姻関係の影響度、婚姻期間、子どもの有無、不倫期間、不倫の悪質性など、それぞれの夫婦の状況や不倫の状況によって金額は前後します。
ただし、配偶者が不貞をしている事案では、元々婚姻関係が良好でないことも多くあり、離婚した場合においても150万円前後となるケースも多々ありますので注意が必要です。
不倫相手に慰謝料請求する際に必要なもの
不倫相手に慰謝料請求する際には、上記1.2「客観的な証拠がある」に記載のとおり、不貞行為を立証する客観的な証拠が必要になります。
不倫の証拠
不貞行為を立証する客観的な証拠の代表例は、下記のとおりです。
探偵の調査報告書(ラブホテルに入室している写真)や不倫を認めている録音、ドライブレコーダーの記録、LINEメール(一夜を2人で過ごしていることが分かるやりとり、大好き、また旅行に行こう等不倫関係が分かるもの)や写真(ラブホテルで2人で写っている、裸の写真等)等
どんな証拠が必要になるのか、下記のとおり詳しく解説します。
相手の氏名、住所または勤務先
不貞の証拠があっても、不倫相手の住所や氏名がわからなければ、慰謝料を請求する内容証明や訴訟提起をすることができないため、不倫の慰謝料請求をするために必要な情報になります。
不倫相手の住所がわからない場合には勤務先に内容証明を送る若しくは裁判所から訴状を送ってもらうことが可能です。
ただし、不貞相手から名誉棄損であると主張され、慰謝料請求の交渉が難航する可能性がありますので、勤務先を送付先にするのは最終手段とすべきしょう。また、名誉棄損などと主張されないように内容証明ではなく本人限定受取の方法にて郵送するなどの配慮をすべです。
また、弁護士であれば、相手方の携帯電話番号から携帯電話会社に契約者情報を照会するなど、相手方の情報から相手方の住所を特定するノウハウも有していますので相談してください。
不倫相手に慰謝料を請求する方法
不倫相手に慰謝料を請求する場合、主に以下で説明する3つの方法が考えられます。
ただし、どの方法で請求するのがベストなのか状況によっては変わることがありますので、弁護士にご相談ください。
相手と直接交渉する
不貞相手と直接話し合って慰謝料を請求する場合、不貞行為を認めているか、慰謝料を支払う意思があるかを確認することが重要です。また、不貞行為を認めた場合は、不倫関係に至った経緯、期間、回数などを具体的に聞き取り、慰謝料の金額、支払方法、支払期限などを書面で合意することが重要です。
口約束で終わらせると、事後的にトラブルになる可能性がありますし、最悪の場合、不貞を否認してくることもあります。
また、不貞相手との交渉状況は、できる限り録音しておきましょう。
内容証明郵便で請求する
不貞相手と直接交渉できない場合、そもそも直接交渉したくない場合には、内容証明郵便を送付して慰謝料を請求する方法が考えられます。内容証明とは、いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、日本郵便株式会社証明するサービスです。普通郵便とは異なり、内容証明郵便を利用しておけば、後にそのような文章は届いていない、記載されていなかったなどの争いを防止することができます。
一般的に内容証明郵便は、法的手続に移行する前に送ることが多く、相手に心理的圧迫を与えるのに効果的です。
また、内容証明郵便により慰謝料を請求すれば、時効の完成を6ヶ月遅らせることができるため、時効が迫っている場合は、内容証明郵便を送ることをお勧めします。
調停・裁判で請求する
家庭裁判所に調停を申し立てして、裁判所で裁判官や調停委員を交えて話し合いを行うことも考えられます。
しかしながら、調停はお互いの合意がなければ成立しません。不貞慰謝料請求の場合、金額的な折り合いがつかないケースが多いですので、話し合いで解決がつかない場合、結局調停でも解決できない可能性が高いため、調停を経ずに裁判(訴訟)するケースが多いと思います。
訴訟であれば、不貞行為の存在や不貞慰謝料の金額に争いがあり和解ができなかったとしても、最終的には裁判所が判断することになります。
不倫相手に慰謝料請求する場合の注意点
相手に不倫慰謝料を請求する場合には、①不倫相手から「求償権」を行使される可能性があること、②ダブル不倫の場合は慰謝料が相殺される可能性があることについて注意する必要があります。
不倫相手から「求償権」を行使される可能性がある
上記3に記載のとおり、不貞相手には、不貞をした配偶者へ対し、責任負担分を請求する権利がありますので、不貞慰謝料が200万円で、負担割合5:5のケースにおいては、不貞相手から不貞をした配偶者に100万円を求償することが可能です。
したがって、特に離婚せずに不貞相手に対してのみ慰謝料を請求する場合には、求償関係の問題を意識した解決を行う必要があります。
例えば、本来、慰謝料は200万円が相当である場合、不貞相手との示談をする際、不貞相手から配偶者への求償権(100万)を放棄する代わりに慰謝料100万円で解決をするなど一回的な解決を図るか図らないかを意識しながら示談する必要があります。
ダブル不倫の場合は慰謝料が相殺される可能性がある
ダブル不倫でかつ双方の夫婦が離婚しない場合、実質的には慰謝料が相殺されてしまう可能性があります。
例えば、AB夫婦とCD夫婦のBCが不倫関係を持ち、AB夫婦とCD夫婦がお互いに離婚しないケースを想定してみます。このケースの場合、AからCに慰謝料請求を行い、DからBに慰謝料請求を行ったとしても、BCが同じ責任割合の場合、CからAに支払われる慰謝料とDからBに支払われる慰謝料が同額となります。
そうすると、AB夫婦とCD夫婦というくくりでみると、実質的には、慰謝料が相殺されてしまうことになります。
ダブル不倫の場合に実質的に慰謝料が相殺されては意味がないとお考えの方は、不倫相手の配偶者には知られずに、不倫相手だけに慰謝料を請求することができないか作成を練る必要があります。
不倫相手が慰謝料を払わない場合の対処法
不倫相手が慰謝料を払わない場合の理由としては、主に①不貞行為自体を争っているケース、②慰謝料の金額に納得していないケース、③お金がないケースが考えられます。
以下で、ケース別に望ましい対処法をご紹介します。
- 不貞行為を争っている場合
このケースでは、不倫の証拠を突きつけることが何より効果的です。
交渉の時点で不貞の証拠をどこまで開示するのがベストかについては、慎重に検討する必要がありますが、メールや写真、興信所の報告書などを入手していることを伝えることも一つの手段です。
不貞相手も不貞行為を立証する証拠があると分かれば、慰謝料の支払いに応じる対応に切り替わるケースが多いです。 - 慰謝料の金額に納得していないケース
不貞相手が「婚姻関係が既に破たんしていた」「過大な請求だ」などと言って慰謝料の金額を争っている場合には、夫婦円満若しくは平穏な夫婦生活を送れていたことが分かる証拠を提示するなどして反論することが重要です。
あとは、不貞慰謝料の相場や訴訟提起した場合の見込みを意識しながら、例えば、300万円の請求をしていたとしても、訴訟提起前であれば150万円で示談するといった交渉を行うことも一つの方法かと思います。 - お金がないケース
不貞相手のお金がないという言い分が本当の場合、訴訟提起をしたとしても一括で支払ってもらうことは困難です。
資産があること(例えば、相手方名義の車両や不動産)を突き付けることができれば、一括で慰謝料を支払う対応に切り替わることもありますし、本当に資産がなければ、分割払いを受け入れる等の対応を取ることがベストな選択のケースもあります。
不倫相手に対してやってはいけない事
不倫相手に対する憎しみから不倫相手を懲らしめてやりたいという感情を抱えることは仕方がないことだと思います。ただし、実際に行動に移してしまうと取返しのつかないことになることがあります。
そこで、実際に不倫相手に対してやってはいけないことの代表例を説明します。
- 相手の勤務先や家庭に手紙を送りつける
不貞相手を懲らしめたいという気持ちは分からなくないですが、名誉棄損行為として損害賠償義務を負う可能性があります。 - 不貞相手に対して脅迫、恐喝、暴力行為を行う
不貞相手に対する憎しみから、怒鳴り続けてしまうと脅迫にされてしまうおそれがありますし、暴力をすればその暴行罪、怪我を負わせた場合傷害罪になってしまい、民事の損害賠償の問題だけではなく、警察に逮捕されてしまう可能性があります。
そうなってしまったら、被害者の立場から加害者に立場が変わってしまいますので、注意しましょう。
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不倫相手への慰謝料請求に関するQ&A
不倫相手が複数いた場合、全員に慰謝料請求することは可能でしょうか?
不倫相手が複数いる場合、配偶者と不倫相手全員にそれぞれ慰謝料請求をすることができます。
ただし、不倫相手が複数いる場合に慰謝料が倍増するということはありません。配偶者に対する慰謝料の金額を増額する要素にはなります。
離婚した後でも不倫相手に慰謝料を請求することはできますか?
離婚後であっても、不倫相手に慰謝料を請求することは可能です。
ただし、離婚の原因は「配偶者の浮気・不倫」であり、時効期間が経過していないことが必要です。
不倫相手への慰謝料請求をお考えなら弁護士にご相談ください
ご自身で憎き不倫相手と慰謝料の交渉をするのは精神的負担がとても大きくなります。
また、不貞の証拠の収集方法、適正な慰謝料の金額など悩むことは多くあります。
弁護士に依頼すれば、事案に応じた適切な判断ができますし、憎き不貞相手と代わりに交渉をしてもらえます。弁護士であれば、専門的な知識を有しており、冷静に交渉することができるため、早期解決につながります。
ALGでは探偵事務所も併設しており、事件を探偵と協力して、必要な証拠を集めることも可能です。
不倫相手への慰謝料請求は私たち弁護士法人ALGにお任せください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)