監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
財産分与で対象となることが最も多いと思われるのが夫婦の預貯金です。それでは、夫婦いずれかの名義の口座の預貯金は、全部が財産分与の対象となるのでしょうか。口座の名義や作成時期によって、財産分与の対象となるのかどうかが分からないこともあると思います。ここでは、夫婦の通帳の預貯金のどこまでが財産分与の対象になるのかについて解説します。
目次
通帳の預貯金は財産分与の対象になる?
夫婦いずれかの名義の通帳の預貯金は、どれも財産分与の対象になるのでしょうか?結論からいえば、対象になるものとならないものがあります。以下で解説します。
財産分与の対象になる預貯金
財産分与の対象となるのは、夫婦が結婚してから離婚あるいは別居するまで(家計を一つにしていた間)に夫婦の収入から蓄えられた財産です。そのため、夫婦それぞれの収入を元手として、それぞれの口座に貯まったもの、あるいはお金を出し合って貯めたものは、財産分与の対象になります。
財産分与の対象にはならない預貯金
上記のように、結婚している間に夫婦の収入により形成された財産が財産分与の対象となるため、独身時代の貯金や、相続・贈与などで得たお金は、財産分与の対象にはなりません。
婚姻前の口座を婚姻後も使い続けている場合は要注意
上記のように、結婚前の独身時代の貯金は財産分与の対象となりません。しかし、結婚前から使っている口座を結婚後も使い続けることも少なくないでしょう。このような場合、結婚前に持っていた財産を区別できないと、財産分与の対象に含まれてしまうことがあります。結婚した時点での残高について通帳の記帳や金融機関の取引履歴などで明らかにできれば、財産分与の対象から除ける可能性があります。
財産分与の対象にしないためにできることはある?
結婚した時点での残高を記帳している通帳があれば、証拠になります。それがない場合、結婚したのが10年(一般的な金融機関の取引履歴の保存期限)以内であれば、取引履歴を出してもらうこともできます。また、贈与や相続によって財産(残高)が増えている場合は、それを証明する書類(遺言書、遺産分割協議書など)が証拠となります。
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へそくり用の隠し口座は財産分与の対象になる?
へそくりを隠し口座に貯めていた場合、その預貯金が財産分与の対象になるかどうかは、その元手によります。夫婦の収入から、生活費の余剰を貯めていた場合は、財産分与の対象となります。一方、結婚前から持っていた財産を配偶者に秘密で売却したお金など、夫婦の収入以外を元手とするへそくりについては、財産分与の対象となりません。
子供名義の預貯金は財産分与の対象になる?
子ども名義の預貯金についても、夫婦の収入を元手として貯めていたものであれば財産分与の対象となります。一方、入学祝やお年玉など、もらったお金を貯めていれば、それは子どもの財産であり、財産分与の対象となりません。夫婦の収入と入学祝・お年玉などが混在して貯蓄されている場合は、そのうち一部(夫婦の収入による分)のみを財産分与の対象とすることも考えられます。
学資保険についても、多くの場合は夫婦の収入を掛金としており、財産分与の対象となります。
もっとも、子ども名義の預貯金や学資保険は子どもの将来のために貯めておくものですから、財産分与の対象となりうるものであっても、必ずしも分ける必要はなく、子どもの将来のために取っておくという選択もありえます。
財産分与するには通帳の開示が必要
財産分与を行うには、まず夫婦が互いの財産を明らかにしなければなりません。自分の通帳の残高を開示し、相手にも開示を求めることとなります。
通帳のコピーを用意しましょう
預貯金の残高を開示する際には、通帳のコピーを用意しましょう。別居または離婚時の残高が判るコピーは最低限必要となります。独身時代から使っている口座の場合、婚姻開始時の残高が判るコピーも準備しましょう。また、婚姻時から別居または離婚までの間に相続・贈与などによる入金や、財産隠しのための出金がないかなどが問題となる場合、婚姻から離婚・別居までの全期間の履歴のコピーが必要となることもあります。
通帳開示をしたくない場合
あなたが通帳を開示したくない場合、あるいは相手が通帳を開示しようとしない場合、どうなるでしょうか。夫婦であっても、口座の開示を強要することはできませんし、相手の名義の口座の開示を金融機関に頼んだとしても認められることはありません。ただし、双方の財産が出揃わなければ財産分与は進まないため、最終的には開示が必要となります。
通帳開示を拒否された場合
相手が通帳の開示を拒否しそうな場合は、可能であれば事前にコピーを取っておきましょう。それができず、また実際に相手が通帳の開示を拒否した場合、以下のような手段をとることができます。
弁護士会照会制度
弁護士会照会制度とは、弁護士が所属する弁護士会を通じて金融機関などに照会を行い、残高の開示などを求める制度です。預貯金の残高を求める場合、相手の口座の存在する金融機関名と支店名等の情報が判っていれば、照会を行うことができます。反対に、それらの情報がなければ、有効な照会を行うことはできません。
調査嘱託制度
調査嘱託制度とは、裁判所から金融機関に口座の有無や残高の開示を求める制度です。弁護士会照会と同じく、金融機関名と支店名等の情報が必要となります。裁判所からの照会であり、審判・訴訟といった裁判所での手続が行われている中でしか使えませんが、弁護士会照会では開示に応じなかった金融機関が調査嘱託には応じるというケースもあります。
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財産分与時の通帳に関するQ&A
別居時に通帳を持ち出され、預貯金を使い込まれてしまいました。財産分与は請求できないのでしょうか?
使われた預貯金の使途が生活に必要な費用であり、そのために預貯金が無くなってしまった場合、財産分与を請求することは難しいです。一方で、相手の個人的な浪費による使い込みである場合、それを立証すれば、財産分与を請求することができます。個人的な浪費なのか生活に必要な費用であったのかは、購入した・お金を使ったものの領収書等を資料に検討することになります。
口座があるのは確実なのに、通帳を隠されてしまい残高が分かりません。どうすればよいでしょうか?
口座がある金融機関や支店について覚えていれば、上で説明した弁護士会照会や調査嘱託によって残高の開示を受けられる可能性があります。それらの情報が分からないという場合は、財産分与を行うためにはお互いの財産を残らず毎時することが必要である旨を相手に伝えましょう。話合いでは応じない場合も、調停手続の中で裁判所から促されれば、提出に応じる可能性があります。
銀行口座を解約されてしまったら、通帳開示できませんよね。諦めるしかないのでしょうか。
解約済の口座であっても、金融機関には情報が保存されています。そのため、保存期間である10年以内であれば、弁護士会照会や調査嘱託によって開示を受けられる可能性があります。
宝くじの当選金が口座に入っています。財産分与の対象になりますか?
宝くじはそれを当てた方がたまたま幸運により手にした大きなお金であり、財産分与の対象にならなさそう、というイメージがあるかもしれませんが、婚姻中に購入・当選した宝くじについては、何度も買っているうちに高額当選したというケースが多いこと、そうすると夫婦の収入が購入原資であるとみられること、当選したお金も個人的にではなく家族の生活のために使われることが通常であることなどから、財産分与の対象になるケースが多いといえます。そのように判断した裁判例もあります。
財産分与で預貯金等を確認することは大切です。弁護士に相談することをお勧めします。
財産分与の対象となる預貯金の範囲の判断や、隠された・開示されない通帳がある場合の対処など、個人で対応することが難しいこともあるでしょう。財産分与と預貯金のことでお悩みでしたら、ぜひ弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)