監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
親権が欲しかったにもかかわらず、相手に親権を取られてしまうケースも少なくありません。しかも、その結果として子供が幸せになったように見えなければ、許しがたいと感じても無理はないでしょう。
一度決めた親権を変更できる場合があります。とはいえ、親権者の変更は子供にとって重大なことですので、そう簡単には変更することはできません。
ここでは、親権者を変更することができる場合について、その方法や手続き等を解説します。
目次
離婚後に親権者を変更することはできるのか
離婚後に親権者を変更すること自体は可能ですが、決して容易ではありません。親権者が変わるといった事実は、子供からしてみると想像を絶する大きな負担となりますので、親権者は簡単に変えるべきではないと考えられているからです。
そのため、親権者は元夫婦による“話し合い”だけでは変更することはできません。仮に、親権者が親権を手放したいと希望しても、実際に変更する場合には、必ず「親権者変更調停」といった裁判所の手続きを経なければなりません。また、離婚する際に、「3年経ったら親権者は変更する」等の合意をしていたとしても無効となります。
親権変更が可能な場合とは
親権者を変更することが可能な場合として、以下のようなケースが挙げられます。
- 子供が親権者等から虐待を受けている
- 親権者が頻繁に遊びまわる等、養育を放棄した状態である
- 親権者が重い病気にかかり、養育が困難になった
- 成長した子供が親権者の変更を希望した
- 親権者の海外出張等により、養育環境が大きく変わった
仮に、上記のような条件があったとしても、必ずしも親権者を変更することができるというわけではありませんので、くれぐれもご注意ください。
親権を変更する方法
一度取り決めた親権を変更するには、家庭裁判所に対して「親権者変更調停」を申し立てる必要があります。
離婚する際の親権は、夫婦の話し合いによって決められますが、親権者の“変更”ともなると、元夫婦の話し合いだけで決められるものではありません。必ず家庭裁判所における手続きが必要になります。
調停期日に両親が親権者の変更に合意すれば、家庭裁判所の調査官が調査を行い、家庭裁判所が親権者変更の要否を確認します。
親権者変更調停とは
親権者変更調停とは、離婚時に決めた親権者を、離婚後に変更するための調停です。この手続きは、元夫婦の合意によって省略できないため、家庭裁判所での調停の手続きを行う必要があります。
なお、元配偶者である相手方が、調停において親権者の変更に最後まで反対したケースや、相手方が行方不明であるケース等では、親権者変更審判によって結論を出すことになります。
親権者変更調停の手続き方法
親権者変更調停は、子供の親族が申し立てることができます。なお、子供本人は申し立てることができません。
調停を申し立てるためには、必要な書類を揃えて、収入印紙や郵便切手を用意します。これらについて、以下で解説します。
申立てに必要な書類
親権者変更調停を申し立てるために必要な書類として、以下のものが挙げられます。
- 申立書の原本及びコピー(本人又は弁護士等が作成)
- 事情説明書(裁判所のサイトよりダウンロード)
- 当事者目録(裁判所のサイトよりダウンロード)
- 進行に関する照会回答書(裁判所のサイトよりダウンロード)
- 申立人、相手方、未成年(子供)の戸籍謄本(本籍地を管轄する役所で入手)
申立てに必要な費用
親権者変更調停の費用は、未成年の子供1人につき1200円分の収入印紙を、申立書に添付して提出します。未成年の子供3人の親権を変更したい場合には、「1200円×3=3600円」により3600円分の収入印紙が必要です。
また、連絡用の郵便切手を、各家庭裁判所において必要とする金額分だけ提出します。
書類を提出したら調停期日の案内が届くのを待つ
申立てに必要な書類は、元妻である相手方の住所地の家庭裁判所に提出します。なお、両親が、本来とは異なる場所の家庭裁判所を管轄とすることに合意した場合には、その家庭裁判所に提出します。
家庭裁判所に調停を申し立てると、調停申立後1ヶ月程度が経ってから、裁判所から初回の調停期日を通知が来ます。
親権者変更調停の流れ
親権者変更調停を申し立てると、以下の流れで調停が進められます。
①裁判所によって初回の調停期日が決定される。
②基本的には双方が家庭裁判所に赴き、第1回調停が行われる。
③第1回で合意できなければ、第2回調停が行われる。
④合意の成立又は不成立によって調停が終了する。
調停成立後の手続き
調停が成立してから10日以内に、市区町村の役場に親権者変更の届出をする必要があります。これは、調停が成立しても、自動的に親権者が変更されるわけではないからです。
親権者変更の届出をするときには、調停調書の原本と、父母それぞれの戸籍謄本が必要となります。
調停が不成立になった場合
親権者変更調停が不成立となった場合には、自動的に審判手続きに移行されます。審判は、調停のときに家庭裁判所の調査官が作成した「調査報告書」等を根拠として、裁判官が結論を出すこととなります。
調停が不成立になってしまったときに、一旦は親権者の変更を諦めて、状況が変化するのを待ってから、もう一度調停を申し立てる方法が考えられます。また、親権の変更を諦めて、代わりに面会交流の頻度を増やすよう、相手方へ交渉すること等の方法も考えられます。
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親権者変更調停の申立て~成立にかかる期間
親権者を変更することについて、当事者間に争いのない場合には、第1回の調停で親権者変更が成立する可能性があります。調停が1回で終われば、申立てから成立までの期間は1ヶ月程度であるケースが多いです。
しかし、互いの主張が対立し、親権者の変更について争う場合には、複数回の調停が行われます。さらに、話し合っても調停を成立させられないときには、親権者変更審判によって結論が出ます。こちらのケースでは、争う期間が数ヶ月に及び、1年以上になるときもあります。
親権者変更にあたって裁判所が重視していること
親権者の変更にあたっては、変更することが子供の利益につながるかということが重視されます。現在の親権者の監護状況や、親権の変更を申し立てている親の状況、そして子供の意思等についても考慮されます。子供の意思が重視されるのは、子供の年齢が15歳以上の場合等であり、事情によっては、もう少し幼くても子供の意思を尊重するケースがあります。
また、両親の経済状況は、双方の監護能力があるか否かを判断するにあたって、考慮要素となります。浪費癖があり多額の借金がある等の事情があれば、親権者としての能力に疑問を持たれる場合があります。
なお、離婚する際には、子供が乳幼児である場合等において、親権者を母親にするべきだとされることが多いです。しかし、親権者の変更のときには、あまり重視される事柄ではありません。
親権者の再婚相手と子供が養子縁組したあとでも親権変更できるのか
親権者が再婚し、その再婚相手と子供が養子縁組して共同親権となったときには、親権者変更ができなくなります。これは、親権者変更が単独親権の状態を想定している制度だからです。
もしも、親権者の再婚相手によって子供が虐待されている等の事情があるときには、まずは親権を停止するための申立てを行う必要があります。
離婚後に親権者が死亡した場合、親権はどうなるのか
親権者が死亡した場合には、家庭裁判所によって未成年後見人が選任されます。そのため、非親権の親が、自動的に親権者になるわけではありません。
非親権者でない親を、即座に親権者にしないのは、子にとって親であったとしても、親権者にすることが子の福祉のためになるとは断定できないからです。もしも、親権者ではない親の生活環境が、子供を育てるのに相応しくない状態であれば、血縁関係のない第三者に任せた方が良いと判断される場合もあります。
親権者を祖父母に変更したい場合はどうするのか
親権者を祖父母に変更した場合は、対象となる子供と祖父母が養子縁組をする必要があります。
親権は、父母の両方または一方が担うものとされているため、祖父母が親権者として認めてもらうことができません。
そこで養子縁組の手続きを経て養親子となる段階を踏んでから、親権変更の手続きを進めていくこととなります。
親権者の変更を希望するなら弁護士に依頼したほうがスムーズにすすみます
離婚するときに親権を取られてしまい、親権者を変更したいときには、まずは弁護士にご相談ください。
親権者を変更する手続きは、当事者の合意だけでは成立しない特殊なものであるため、親権者を変更する必要があることについて裁判所を説得しなければなりません。特に、相手方が親権者の変更に反対している場合には、相手方と主張を戦わせなければならないため、親権者を変更することには困難が伴います。
親権者変更の経験の豊富な弁護士であれば、裁判所を説得するポイントを押さえながら、相手方との交渉もお任せいただけます。
まずはご状況を詳しくお伺いしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)