子供と一緒に暮らすための監護者指定とは

離婚問題

子供と一緒に暮らすための監護者指定とは

姫路法律事務所 副所長 弁護士 松下 将

監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士

離婚前に両親の一方が子供の監護者として認められた場合には、その親が離婚後の親権者となるケースが多いです。また、親権者を父親、監護者を母親といったように異なる親にする場合には、監護者側が子供の世話をすることになります。そのため、子供との同居を望むのであれば監護者になる必要があります。
このページでは、監護者指定について、指定する判断の基準や、調停・審判などの手段等について解説します。

監護者指定とは

監護者指定とは、別居時や離婚時、離婚後に、親権者とは別に子供を監護する者を指定する制度です。
通常であれば、離婚する場合等には、両親は親権の獲得を目指して争うことが多いです。しかし、離婚する前の別居の段階では、親権は両親が共に有しています。
そこで、監護者になることによって子供と同居が可能となり、裁判所は子供の現状を維持するべきだと考える場合が多いこと等から、離婚する際に親権を争っても有利になるケースが多いです。

親権者指定と監護者指定の違いについて

親権者指定と監護者指定の違いは、親権者指定が離婚後に親権者となる者を決める手続であるのに対し、監護者指定は離婚までの間の別居中に子供を監護する者を決める手続であるということです。また、その他の違いとして、親権者は基本的に父親か母親しかなれないのに対して、監護者は第三者でもなれる可能性があるということもあります。そのため、両親から育児放棄された子供について、祖父母等が監護者に指定されるケース等があります。
ただし、第三者が監護者になれる法律上の規定がないため、第三者が監護者の指定を求めることはできないとされています(最高裁 令和3年3月29日第1小法廷決定)。

親権者と監護権者は分ける場合がある

親権は財産管理権と身上監護権によって構成されます。通常であれば、どちらも親権者の権利ですが、両親が離婚する場合、特別な手続きをすることによって親権者とは別に、身上監護権だけを有する監護者を指定し、親権者と監護者を父母で分けることが認められます。例えば、子供が幼いので監護者を母親にしたいが、母親の金銭の管理について不安があるケースや、離婚の際に親権についてどちらも譲らず、なんらかの妥協案が必要なケース等で用いられます。
ただし、裁判所は、親権者と監護者が別人になることについて、あまり肯定的ではありません。また、親権者と監護者が別人だと、監護者は親権者の許可を受けなければ銀行通帳を作成することもできない等、不便になるためご注意ください。

親権者と監護権者が実際に分けられた審判

母親である相手方が、申立人である父親と子の面会交流に積極的であることを前提として、調停により相手方に親権(監護権を含む)を与えたにもかかわらず、相手方が子に面会交流を拒否させた事例において、親権者と監護権者を分ける審判が行われました(福岡家庭裁判所 平成26年12月4日審判)。
これは、申立人があらゆる手段を尽くしても、調停によって取り決めた面会交流が実現しないため、申立人を親権者として指定し、相手方を監護者として指定することにより、両親が協力して子育てに関われるようにするべきであると判断されたものです。

監護者指定の判断基準

監護者を指定する際の判断基準として、親側の事情、子供側の事情をそれぞれ挙げます。

【親側の事情】

  • 子供に対する愛情
  • 子供の養育実績
  • 心身の健康状態
  • 経済状況
  • 養育を手伝ってくれる者の存在
  • 乱暴な方法で連れ去りを行ったか否か
  • 自身が監護者になったときに、より多くの面会交流の機会を設ける意思があるか

【子供側の事情】

  • 現在の年齢
  • どちらの親に育てられたいと思っているか
  • 現在の環境(学校や友人関係等)を維持できるか

子供の年齢によって監護者を判断する場合もある

監護される子供の年齢が低い場合には、母親が優先されることが多いです。特に、子供が10歳以下のケースでは、この傾向が顕著です。
また、子供が10歳を超えていても15歳未満であるときには、子供の意思等について考慮されるものの、基本的に母親が優先されます。
しかし、子供が15歳以上であるときには、基本的に子供の意思が尊重されます。

離婚時・離婚後の監護者指定の流れ

離婚時の監護者指定は、通常の場合、親権者の指定と同時に行われます。このとき、親権者の指定と同様に、当事者の合意だけで監護者を指定することが可能です。しかし、離婚届に明記しなければならないのは「親権者」だけであるため、「監護権者」を定めたときには、離婚協議書等の書面に残す必要があります。なお、離婚協議書は、なるべく公正証書として作成すると良いでしょう。
一方で、離婚後の監護者指定は、家庭裁判所に申し立てて行います。このとき、家庭裁判所は、親権と監護権の分離を簡単には認めてくれません。親権者に育児放棄や虐待等の問題があるときには、監護者を親権者ではない方の親にしてもらえる可能性があるでしょう。

監護者の指定調停

監護者を指定する調停を単独で行うのは、夫婦が別居しており、離婚に向けて話し合いを行うタイミングであることが多いです。
監護者の指定調停をどのように行うのか、詳しくみていきましょう。

指定調停を申し立てるためには

監護者指定の調停は、相手方の住所地の家庭裁判所、又は当事者が合意で定める家庭裁判所に申し立てます。申し立てる際には、子供1人につき1200円の収入印紙と、連絡用の郵便切手が必要です。
また、申立書とその写し、当事者目録、未成年者の戸籍謄本の提出が必要です。申立書と当事者目録の書式は、裁判所のサイトからダウンロードして利用することが可能です。

監護者指定調停の流れ

調停を申し立てると、期日に申立人と相手方が家庭裁判所に赴きます。そして、調停委員に意見を伝えますが、当事者の一方が調停委員と話しているときには、もう一方は待合室で待機します。
調停の期日を重ねながら、調停委員を介して話し合いを続けますが、いつまで経っても結論が出ないケースもあります。そのようなときには、調停では結論を出すことができないため、調停不成立として審判に移行します。

別居中でも監護者指定することはできます

監護者指定の手続がもっともよくとられるのは、別居中であり離婚前に監護者指定を求めるケースです。これは、まだ離婚しておらず共同親権ではあるものの、夫婦のどちらかが子供を監護しなければならず、監護者になって監護実績を作れば離婚の際の親権者争いで有利になるため、親権獲得の前哨戦のような意味合いを持ちます。

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監護者指定審判の流れ

監護者指定の審判は、事前に調停を行わなければできないわけではありません。この点、離婚の審判とは異なるところです。そのため、最初から監護者指定の審判を申し立てることがあります。
実際に申立てをすると、多くの場合に、家庭裁判所調査官の調査が行われます。そして、期日に家庭裁判所に呼び出されて、裁判官の審問を受けます。そして、審判を重ねた後で審理が終結し、審判書が作成されて審判が下されます。

どのくらいの期間がかかるのか

審判は、通常であれば半年程度かかります。より長い期間に及ぶケースもありますが、その間に監護実績を作られてしまうと、親権の獲得に不利になります。
そこで、保全手続きの利用が可能であり、1ヶ月~2ヶ月程度で結論を出してもらえる可能性があります。

審判後の流れについて

監護者指定の審判によって監護者に指定された親は、相手方に対して子の引き渡しを求めることが可能です。しかし、相手方が任意の引き渡しに応じないケースもあるため、そのような場合には強制執行の手続きを求めることがあります。

監護者指定審判の即時抗告について

監護者指定審判の結果に納得がいかないときには、不服があるとして即時抗告を申し立てることができます。申立先は、審判を行った家庭裁判所で、審判書の送達を受けてから2週間以内であれば申立ての手続きが可能です。
即時抗告の申立てをすると、原審の判断を維持するか否かは、高等裁判所で判断されることになります。

監護者指定・子の引き渡しの審判前には保全処分をする

配偶者からのDV・モラハラなどに耐えられず、単身で家出をして別居に至ったケース等では、子供の身の安全を確保するために、子の引き渡しの審判を申し立てるのと同時に、保全処分を申し立てる場合があります。
保全処分が認められれば、子供の引き渡しを受けることが可能です。このとき、たとえ相手方が不服に思って即時抗告をしたとしても、保全処分の効力はなくなりません。そのため、子供の引き渡しを受けることができます。

よくある質問

監護者指定に関してよくある質問について解答していきます。

監護者指定審判では父親と母親はどちらが有利ですか?

状況にもよりますが、基本的には母親が有利であるケースが多いです。特に子供が幼い場合等、母親の方が圧倒的に有利であると考えられるケースもあります。
しかし、これは夫婦共働きが一般的になってきた現代においても、子育てを中心的に担っているのが母親であることが多いからです。そのため、主に父親が子育てを担っているケースであれば、父親の方が有利になることもあります。
また、子供が15歳以上であり父親に育てられたいと希望しているケースについても、父親の方が有利になると考えられます。

子供が配偶者に連れ去られた場合、監護者はどちらになりますか?

子供が配偶者に連れ去られた場合には、連れ去られた側が有利になる可能性があります。ただし、連れ去られた側が有利になるためには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 自分がDVやモラハラ等の加害者でなく、連れ去りに正当な理由がないこと
  • お酒やギャンブル等の影響で生活が荒れているようなことがない
  • 連れ去られるまで、子供の養育を十分に担ってきた
  • 連れ去られてから、あまり時間が経っていない

近年までは、親が子供を連れ去って監護実績を作ると、裁判所はその状況を維持しようとする判断を出す傾向にありました。
しかし、国際結婚のケースで子供の連れ去りを禁止する「ハーグ条約」に日本が加入したことにより、子供の連れ去りは基本的に違法であると考えられるようになり、裁判所の判断にも影響を与えるようになってきています。

監護者指定がされて面会交流後に子供が連れ去られた場合は今後も面会交流をしないといけませんか?

面会交流後に子供が連れ去られてしまった場合には、「面会交流禁止の申立て」を行うことが可能です。これは、再び子供が連れ去られるのを防ぐために、面会交流の実施を阻止するための手続きです。
しかし、「連れ去られた子供を、今度はこちらが連れ去る」といった行為はするべきではありません。子供に悪影響を及ぼすリスクが高いため、専門家に相談したうえで「人身保護請求」という手段を用いて、子供を合法的に連れ戻すようにしましょう。
なお、子供の連れ去りは、たとえ自分の子供であっても「未成年者略取・誘拐罪」という犯罪になるリスクがあるため、その認識を両親共に有しておくことをおすすめします。

祖父母が監護者になることはできますか?

祖父母が監護者になることは可能です。ただし、祖父母が自ら裁判所に監護者への指定を求めることはできません。これは、祖父母が監護者になれるという規定が、法律に存在しないためです。
しかし、実態としては、主に祖父母が子供の面倒を見ているケースが少なくありません。そのため、養子縁組によって養親子になっておく等、いざというときには監護者への指定を求められるようにしておくのが望ましいでしょう。

調停離婚と監護者指定の調停は同時に申立てることができますか?

離婚調停と監護者指定の調停は、同時に申し立てることが可能です。このとき、子供の親権について双方が譲らない場合には、離婚調停は長引くケースが多いため、監護者指定について審判に移行し、結論を出してから離婚・親権についても結論を出すことがあります。

離婚時の監護者指定について経験豊富な弁護士に相談してみましょう

監護者として指定されたい場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。離婚の際に親権が重視されて注目されますが、親権者と監護者を夫婦のそれぞれに定めた場合には、子供と一緒に暮らせるのは監護者です。
離婚する前の状態であっても、別居しているときに監護者として実績を作っておけば、親権の獲得について有利になります。そのため、自身が監護者となって、正当な権利として子供の養育を行うのは重要なことです。もしも相手方が子供を養育するようになってしまったときには、なるべく早く自身を監護者にして子供を取り戻さなければ、親権の獲得について不利になってしまうでしょう。
離婚における親権争い等の実績が豊富な弁護士であれば、監護者指定の争いについても多くの経験を有しています。「最終的に親権者になれば良い」などと考えず、監護者として指定されるためにも、なるべく早い段階で弁護士にご相談ください。

姫路法律事務所 副所長 弁護士 松下 将
監修:弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
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