監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
「日々の介護に疲れ切ってしまった」
「旦那や周りの理解や労い、協力がなく、ただただ辛い」
「介護が辛くて離婚したいが、その後の生活が不安」
介護をきっかけとした離婚には、さまざまな想いがあります。介護に明け暮れていると、どんどん視野が狭くなってしまい、思い詰めてしまう方も少なくありません。
このページは、介護離婚について少しでも理解を深めていただくことを目的としています。ぜひ参考になさってください。
目次
介護離婚とは
介護離婚とは、離婚の理由が介護によるものをいいます。
いわゆる造語に過ぎませんが、この言葉が行き交うほど介護を理由に離婚するケースが増えていることを意味しています。「介護」ときくと多様なイメージがありますが、そこに「離婚」が絡むと、“義両親の介護に苦しむ嫁”が急浮上しますよね。
また、その介護の対象は、義両親だけではなく、実の両親や配偶者、障害をもった自分の子供など、多岐にわたります。では、ケースごとに詳細をみていきましょう。
義両親の介護を理由に離婚するケース
「夫の両親の介護をするのは嫁の務め」という価値観は未だ根強く、「嫁がやって当たり前」と認識している家庭も多いようです。とはいえ、介護は肉体的にも精神的にも決して楽なものではありません。その対象が血のつながりのない義両親ともなると輪をかけてストレスを感じやすくなります。
さらに、夫をはじめとする親族の労いや協力などがないことが後押しとなり、離婚を決意するパターンが多いようです。
介護した義両親の遺産は離婚時にもらえるのか
介護した義両親の遺産を離婚時にもらえる可能性は、十分にあります。
厳密にいうと、“遺産”ではなく、“特別寄与分”として遺産を相続した夫や兄弟姉妹などに請求し、間接的に得る流れとなります。
これまでは、嫁の立場にあると、日々介護に明け暮れたにもかかわらず請求することすら認められていませんでした。この点を考慮する目的で、約40年ぶりに民法が改正され、嫁の立場でも無償で行ってきた介護への報いが「権利」として法律により認められています(民法1050条 2019年7月施行)。
義両親の介護をしなければならないのは誰?
義両親の介護をしなければならないのは、血のつながりがある者、つまり実の子供である「夫やその兄弟姉妹」です。そのため、そもそも嫁の立場にある人には義両親の介護をする“義務”がありません(民法877条1項)。
とはいえ、嫁の立場にあっても、「同居しているから」「お世話になった恩があるから」といった理由で介護にあたる人もいます。
また、今でこそ多様な考え方が広まりつつあるものの、「介護は長男の嫁の役割」という風潮は未だ根強くあるのも実情です。地方や高齢者世代では、より色濃く残っているでしょう。
このようなことから、 嫁の立場にあっても、こうした“義理”や“昔からある風潮”で介護にあたっているケースが多いといえます。
実親の介護を理由に離婚するケース
義両親ではなく、自分の親の介護をめぐって離婚に至るパターンもあります。
自分の親を介護するために実家との往復が増えたり、それに伴う交通費や負担がかさんだりするのは当然です。しかし、配偶者からの理解がなく、心ない言葉を浴びせられ気を病む方も少なくありません。
ただでさえ介護に疲弊しているところに、配偶者の理解やサポートがない状況に、離婚を決意するケースがこれにあたります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
夫(妻)の介護を理由に離婚するケース
時に、夫や妻といった配偶者が介護の対象となる場合もあります。
生活を共にしていた配偶者が介護を要する状態になることは、想像を絶する負担が伴います。
このため、年代や夫婦・家族間の関係性にもよりますが、経済的負担が大きかったり、周囲のサポートが得られなかったりすると、離婚が頭をよぎるパターンが多いようです。
また、介護する前の段階で、夫婦関係が良好ではなかったともなると、介護がきっかけ・後押しとなって離婚を決意する人もいます。
介護を放棄した場合の財産分与はどうなる?
念頭においていただきたいのが、どんな事情であれ原則として「財産分与は2分の1ずつ分けられる」という点です。ですので、介護を放棄して離婚に至った場合でも、共有財産の2分の1は受け取れるのが通常です。ただ、一方が高額所得者である場合など、財産を築き上げる貢献度に偏りがある等の事情がある場合は例外です。
また、年代的に、介護離婚は熟年離婚と重なるパターンも多いです。この場合、退職金の扱いや年金分割なども視野に入れる必要があります。
夫(妻)が認知症の場合、離婚はできる?
夫や妻が認知症で介護離婚を検討する場合は、「行為能力の有無」がカギとなります。
認知症により行為能力に問題があったとしても、意思能力がある場合は、問題なく離婚することが可能です。他のケースと同様に、話し合いや調停などの手段により離婚できます。
もっとも、行為能力に問題がある場合(精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある又はその能力が著しく不十分である場合)には、認知症の夫や妻に代わる成年後見人または保佐人を立てる必要があります。
成年後見人や保佐人は、行為能力がない者に代わって財産を管理したり、法的行為を行ったりする人です。家庭裁判所によって選任され、事情によっては弁護士や司法書士といった成年後見監督人や補佐監督人が選任されることもあります。
家庭裁判所によって選任されたこの者たち(「成年後見人,成年後見監督人、保佐人、補佐監督人」)を相手に、調停等を申し立てる必要がありますので、手続などで不安がある方は、弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
障害児の介護を理由に離婚するケース
障害児のいる家庭もまた、介護をめぐって離婚に至るケースがあります。
我が子ながらも、この先ずっと介護がつきまとうともなると、精神的にも体力的にも経済的にも大きな負担が伴います。本来、協力・結束すべき配偶者との関係も、障害児の介護が火種となって崩れてしまうパターンも少なくありません。
子供がいる場合の離婚は、親権や養育費など、決めるべきことが多いです。障害児の介護を抱えながら離婚の協議を進めるのは、さらなる疲弊が伴うため、第三者である弁護士に間に入ってもらうのも一つの手段といえます。
養育費は増額される?
そもそも養育費とは、夫婦の収入のバランスを見ながら、家庭裁判所の「養育費算定表」に応じて算定されるものです。このため、子供が障害児だからといって、養育費が相場より増額されることはありません。
ただし、算定表が想定されている以上の医療費がかかっている場合には,養育費の増額が認められることもあります。また、親権をもつ側の負担を考えて、相場より高い養育費を払うようにするなどの合意があれば、その家庭独自の養育費額を決めることもできます。
親権はどちらになる?
話し合いなどで結論にいきつかない場合は、子供が小さければ小さいほど、母親が親権者となることが多いです。「母性優先の原則」という、乳幼児などにとって母親の存在は不可欠であるという考え方によるもので、実際の裁判例でもこの点が考慮されるケースもあります。
また、その他の考慮要素として、経済力や監護実績、子供との強い絆の有無、子供の意思や環境、兄弟姉妹とのつながりなどがありますが、「最も優先すべきは、障害のある子供の幸せ」です。
介護離婚のときに慰謝料はもらえるのか
一方的な介護の押しつけや決めつけ、心ない言葉の暴力といったいわゆる“モラハラ”をきっかけに、うつ病になってしまった場合などは、慰謝料をもらえる可能性があります。
また、介護に勤しんでいるなか、配偶者が浮気や不倫をしていたケースでも慰謝料を請求することができるでしょう。
いずれにしても「証拠」が重要となりますので、記録や診断書、写真といった物的証拠をとして残しておくことをおすすめします。
介護離婚を考えたら弁護士にご相談ください
介護をきっかけに離婚を決意する背景には、さまざまな想いがあります。
介護離婚は、介護にまつわるストレスからの解放、心の健康を取り戻せるというメリットがあるものの、無事に離婚できるのか、その後の生活は大丈夫なのかといった不安が伴います。特に熟年離婚にもあたる場合は、こうした不安はより大きいでしょう。
ぜひ、弁護士にご相談ください。弁護士は、依頼者の一番の味方となります。
まずはお気軽に、不安なご状況をお聴かせください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)