監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
相続人の中に、被相続人(亡くなった方)の財産の維持又は増加に特別の寄与(通常期待される程度を超える貢献)をした者がいるときに、相続分を修正することによってその相続人の取得する財産額を増加させることで、共同相続人間の公平を図る寄与分という制度があります。
そして、寄与行為の態様の代表類型の一つとして、被相続人を継続的に療養看護していた「療養看護型」の寄与分がありますので、今回の記事では「療養看護型」の寄与分について解説させていただきます。
目次
療養看護型の寄与分とは
「療養看護型」の寄与分とは、病気療養中の被相続人の療養看護に従事したケースです。
ただし、被相続人が自らの費用で看護人を雇わなければならなかったところを、相続人が療養看護を行ったことによって、その費用の支出を免れたことによって、被相続人の相続財産が維持又は増加したと評価できる場合に限り認められます。
療養看護型の寄与分を認めてもらう要件
療養看護型の寄与分を認めてもらう要件としては、①特別の寄与、②特別の寄与行為と財産の維持又は増加との間に因果関係があること必要になります。
特別の寄与とはどんなもの?
療養看護型の寄与分の要件である「特別の寄与」とは、被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の寄与であることが必要になります。
親族間には扶養義務があるので、被相続人の療養看護を行いことは、ある程度は当然のこととみなされます。
したがって、被相続人の療養看護を要する程度及び療養看護の期間が問題となります。
親族間の扶養義務、親族と見なされる範囲はどこまで?
民法では、両親や祖父母、子供などの直系尊属に加え、兄弟姉妹が扶養義務者に該当するとされています。 また、配偶者も扶養義務者とされています。
そして、被扶養者の配偶者や未成年の子どもの被扶養者の両親は、扶養義務者自身と同じ水準の生活を被扶養者にも保障する義務(生活保持義務)を負っており、兄弟姉妹や成人の子どもの両親は、扶養義務者自身の生活は通常どおり送れることを前提とてその余力の範囲内で被扶養者を扶養する義務(生活扶助義務)を負っています。
要介護認定が「療養看護が必要であること」の目安
療養看護型の寄与分は、「療養看護が必要であること」が前提となっており、健常なる被相続に対する家事等の援助行為は基本的に含まれません。
そのため、要介護認定は、「療養看護が必要であること」の目安となります。
例えば、被相続人が要介護1(日常的な動作のほとんどは自分でできるものの、部分的にサポートが必要な状態)程度の状況であれば、特別な寄与に相当するほどの介護は不要と考えられるため、寄与分が認められるためには、被相続人が要介護2(家事や身の回りのこと全般に見守りや介助が必要な状態)以上の状態であることが一つの目安になります。
要介護とはどのような状態をいう?
介護保険制度では、寝たきりや痴呆等で常時介護を必要とする状態(要介護状態)になった場合や、家事や身支度等の日常生活に支援が必要になった状態(要支援状態)になった場合に、介護サービスを受けることができます。
要介護状態については、おおむね次のような状態を言います。
要介護1 | 日常的な動作のほとんどは自分でできるが、部分的にサポートが必要な状態 |
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要介護2 | 要介護1の状態に加え、日常生活動作についても部分的な介護が必要となる状態 |
要介護3 | 要介護2の状態と比較して、日常生活動作及び手段的日常生活動作の両方の観点からも著しく低下し、ほぼ全面的な介護が必要となる状態 |
要介護4 | 要介護3の状態に加え、さらに動作能力が低下し、介護なしには日常生活を営むことが困難となる状態 |
要介護5 | 要介護4の状態よりさらに動作能力が低下しており、介護なしには日常生活を営むことがほぼ不可能な状態 |
要介護認定がない場合、諦めるしかない?
療養看護型の寄与分が認められるためには、相続人が行った看護内容を立証するだけでは足りず、「療養看護が必要であったこと」を立証する必要があります。
そして、介護保険制度における要介護度は、療養看護時、「療養看護が必要であったこと」を立証するための目安となることは先述したとおりです。
逆に言えば、要介護認定を受けていなければ、「療養看護型」の寄与分を立証することは非常に困難な状況にあると言わざるを得ませんが、「療養看護が必要であったこと」について、被相続人の診断書、医療カルテ、看護記録等を基に立証することも不可能ではありません。
寄与分を認めてもらうには主張する必要がある点に注意
単に被相続人の療養看護をしていたと主張するだけでは他の相続人は納得しないでしょうし、裁判所においても寄与分を認めてもらえません。
また、寄与分の要件を満たす事情があったとしても、証拠がなければ認められません。他の相続人や裁判官が見て納得できる資料を提出し、特別の寄与があったことを証拠に基づいて主張することが重要になります。
療養看護型の寄与分の主張に有効な証拠は?
「療養看護型」の寄与分の主張に有効な証拠としては、以下のようなものが挙げられます。
- 介護保険における要介護認定資料
- 被相続人の診断書、カルテ、介護サービス利用票
- 介護日誌
- 被相続人の当時の写真等
- 療養看護を行っていた期間を疎明する資料
(期間に明確な定めはありませんが、実務的には少なくとも1年以上を必要としているケースが多いです。)
療養看護型の寄与分の計算方法
「療養看護型」の寄与分の計算方法は、介護報酬基準などに基づく報酬相当額に療養看護の日数を乗じて、さらにそれに裁量割合を乗じて算出するのが一般的な方法になります。
〈計算式〉
相当報酬額(日当)×日数×裁量割合
付添介護人の日当額の決め方
付添介護人の日当額の決め方は、介護保険における「介護報酬基準」が用いられることが多くなっています。
同基準は、介護に要する時間に基づき、介護種別(要支援・要介護)を7段階に区分し、それぞれの区分に応じた介護サービスのための報酬額が定められています。
実務においては、要介護者の受けたサービスの内容、居住地等を考慮して、介護報酬を算定したものを参考に療養看護の寄与分を算定しています。
裁量的割合とは
療養看護型寄与分が認められたとしても、介護報酬基準などに基づく報酬相当額そのものが寄与分として認められるわけではありません。
同基準は、看護又は介護の有資格者への報酬をしていますし、扶養等の義務を負う親族と第三者の有資格者とでは当然に報酬額も変わってくるはずですので、それらを一切の要素を考慮した調整割合を「裁量割合」といいます。
一般的には、0.5~0.8程度の間で修正されることが多く、0.7あたりが平均的な数値です。
親族の介護は減額される場合もある
上述のとおり、介護報酬基準等は有資格者への報酬を前提としているところ、扶養等の義務を負う親族と第三者の有資格者とでは当然に報酬額も変わってくるはずですので、親族の介護は、報酬額が減額される場合があるといえます。
療養看護型の寄与分に関する裁判例
寄与分が認められた裁判例
東京高裁平成22年9月13日決定・家裁月報63巻6号82頁
被相続人Aは、相続人Bの妻であるCが嫁いで間もなく脳梗塞で倒れて入院し、付き添いに頼んだ家政婦がAの過大な要望に耐えられなかったため、Cは少なくとも3か月間はAの入浴中の世話をし、その退院後は右半身不随となったAの通院の付き添い、入浴の介助など日常的な介護に当たり、更にAが死亡するまでの半年の間は、Aが毎日失禁する状態となったことから、その処理をするなどAの介護に多くの労力と時間を費やした。
Aが入院した期間のうち約2か月は家政婦にAの看護を依頼し、Aは、在宅期間中は入浴や食事を作ることを除けば、概ね独力で生活する機能を有していたことが認められるが、CによるAの入院期間中の看護、その死亡前約半年間の介護は、本来家政婦などを雇ってAの看護や介護に当たらせることを相当とする事情の下で行われたものであり、それ以外の期間についてもCによる入浴の世話や食事及び日常の細々とした介護が13年余りにわたる長期間にわたって継続して行われたものであるからCによるAの介護は、 居の親族の扶養義務の範囲を超え,相続財産の維持に貢献した側面があると評価することが相当であると判断されました。
また、CによるAの介護は、Bの履行補助者として相続財産の維持に貢献したも のと評価でき、その貢献の程度を金銭に換算する、200万円を下ることはないというべきであるから、この限度でBのこの点に関する寄与分の主張 には理由があると判断している。
寄与分が認められなかった裁判例
広島家呉支審平成22年10月5日家月63巻5号
平成10年から被相続人が死亡する平成13年まで、相続人が遠方から交通費をかけて被相続人宅を訪れ、被相続人の家事を手伝ったことは認められるけれども、その間、被相続人が入院する程重篤な状態にあったわけではないことが認められることなどから、相続人のした家事の援助は寄与分が認められるほどの療養看護に当たるとはいえないと判断しました。
上記のとおり、被相続人が要介護2(家事や身の回りのこと全般に見守りや介助が必要な状態)以上の状態であることが一つの目安になり、被相続人がそのような状態でない限り、一定の介護的な援助をしたことが認められても、それは親族間の協力にとどまり、寄与分が認められるほどの療養看護とまで評価されなかったものと考えられます。
療養看護型の寄与分に関するQ&A
義両親の介護を一人で行っていました。寄与分は認められますか?
義両親の介護については、寄与分は認められませんが、相続人以外の親族が寄与を行った場合に「特別寄与料」として、相続人に対して、特別寄与料の支払請求が認められる場合があります。
介護できない分、介護費用を全額出しました。寄与分は認められますか?
介護費用を全額出していた場合には、その金額や期間によってその支出額が扶養義務の範囲を超える程度の支出であると認められるときには寄与分として認められる可能性があります。
これは、「療養看護型」ではなく、「金銭支出型」の寄与分としても考えられます。
介護だけでなく家事もこなしていた場合、寄与分は増えますか?
寄与分については、様々な事情を総合的に考慮されますので、介護だけでなく家事もこなしていた場合に、寄与分が増える可能性もあります。
もっとも、被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の寄与であることが必要になり、親族間には扶養義務があるので、被相続人の家事を行うことは、ある程度は当然のこととみなされます。
療養看護型の寄与分について不明点があったら弁護士にご相談ください
以上のとおり、療養看護型の寄与分は、容易に認められるものではなく、認められるか否かの判断に専門的知識が必要になります。
また、療養看護の必要性や療養看護をしていたことを裏付ける証拠が不可欠であり、現在所持している資料、手元にはないが集められる資料を含め、寄与分を立証するためにも法的な観点からの検討が必要です。
単に療養看護型してきたと主張するだけでは、基本的には他の相続人は納得されないでそうし、裁判所は認めてくれません。そのため、療養看護型の寄与分を主張するのであれば、法律的な視点が必須であるため、弁護士に相談されることをおすすめします。
弁護士法人ALG姫路律事務所ではこれまで相続問題を多数取り扱ってきている弁護士が在籍しておりますので、是非お気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)