監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
相続に関することで、「寄与分」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。寄与分とは、相続にあたって、被相続人の生前に被相続人を助けていた相続人について、財産を分配する際にその働きを考慮しようというものです。ここでは、その寄与分の請求に時効があるのか否かや、近年新しく制度化された「特別寄与料」の時効のことなどについて解説します。
目次
まずは知っておきたい「寄与分」の意味
寄与分とは、被相続人の家業を手伝うなどして相続財産(被相続人の財産)の増加・維持について一定の貢献(寄与)をしたと認められる相続人について、相続における取り分を決める上でその寄与した分について考慮されるというものです。寄与分の対象となるのは、法定相続人、つまり民法で相続人になることが定められている親族に限られます。
寄与分が認められるための要件
寄与分が認められるためには、いくつかの条件があります。まず、①法定相続人にあたることです。たとえば、被相続人に子がいる場合、その子は民法上相続人となりますが、子の配偶者や被相続人のきょうだいは相続人にならないため、要件を満たしません。次に、②被相続人の財産が維持・増加していること、③相続人の行為と財産の維持・増加に因果関係があることが必要です。単に被相続人のために何かをしたのではなく、財産の維持・増加に繋がる行為であったことが認められる必要があります。また、④親族同士は生活する上で助け合うことが予定・期待されており、そうした通常期待される程度を超える貢献であることも必要となります。
寄与分とは|請求の要件と計算方法寄与分に時効はあるのか?
寄与分の請求には時効はありません。過去に遡って昔の寄与分を主張することも可能です。ただし、寄与分の主張は基本的に遺産分割協議の際にすることになりますが、協議が成立して遺産分割を行うと、その後にその内容を覆すことはできないため、寄与分の主張をすることは実質的にできなくなります。そのため、寄与分の主張は遺産分割協議中に行う必要があります。
昔の寄与分が認められにくいのは本当?
寄与分の請求には時効がなく、また対象となる行為にも相続開始時から何年以内の行為に限るというような期間制限はありません。しかし、あまり昔の行為については、寄与分として認められにくいということがあります。なぜなら、寄与の行為から年月日が経過すると、当事者の記憶が薄れていったり、証拠となる資料が散逸し、入手できなくなったりして、寄与分の主張・立証が難しくなることがあるためです。将来、寄与分を主張する可能性がある場合は、証拠や記録を残しておいた方がよいでしょう。
「特別寄与料」には期限があるため注意!
特別寄与料とは、2019年7月1日施行の改正民法により創設された制度で、相続人にあたらないために寄与分が認められない親族について、被相続人への寄与があった場合に、その寄与に応じた金銭(特別寄与料)の支払いを相続人に対して求めることができるというものです。①被相続人の親族であること、②被相続人の看護・介護などの「労務の提供」を「無償」で行ったこと、③それにより被相続人の財産の増加・維持に(通常期待される程度を超えて)特別に寄与したといえることが要件となります。
寄与分と異なり、この特別寄与料には、消滅時効や除斥期間という主張の時間的制限があります。
特別寄与料の消滅時効
特別寄与料の主張には、特別寄与者が相続の開始および相続人を知った日から6か月という消滅時効があります。消滅時効とは、一定期間行使しない権利を消滅させる制度であり、この場合、被相続人が亡くなって相続が開始されたことや、請求の相手方となる相続人が誰かを知ってから6か月、特別寄与料という権利を主張できるのにしないでいると、その権利を主張することができなくなるということになります。
特別寄与料の除斥期間
また、特別寄与料の主張には、消滅時効のほかに、相続の開始から1年間の除斥期間を経過すると権利が消滅するという除斥期間があります。この除斥期間は消滅時効と異なり、対象者が相続の開始や相続人を知った時ではなく「相続開始の時」から1年間となり、 また、消滅時効のように一定の手続を取ることによって時効の完成を先延ばしにすることもできません。
寄与分を主張するためのポイント
寄与分が認められるか否かやその具体的な寄与の度合いについては相続人間で争いになることが多く、また、その結果いかんによって各相続人の取得する財産の額が変わってくるため、遺産分割協議が大詰めに入った段階などで突然持ち出すというようなことは避け、できるだけ早い段階に主張するようにしましょう。また、寄与分を主張するには根拠となる証拠資料を集めることが重要です。弁護士に依頼することで、寄与に関する証拠の収集についてサポートを受けることができます。
寄与分を請求する流れ
寄与分の請求は、相続人間での遺産分割についての取決めの中で行うことになります。遺産分割の取決めをするには、まず遺産分割協議(相続人同士(一部の相続人に代理人弁護士が就く場合もあります。)の話合い)を行い、まとまらなければ遺産分割調停(裁判所で行う話合いの手続)、それでもまとまらなければ遺産分割審判(裁判のように、裁判官が決定する)を行うことになります。寄与分の主張は、これらの手続の中で行います。
寄与分を主張する方法よくある質問
遺産分割協議後に寄与分を主張することはできますか?
原則として、遺産分割協議が成立した後に寄与分の主張をすることはできません。例外的に、遺産分割協議自体をやり直す場合にはその中で寄与分の主張を行うことができますが、遺産分割協議のやり直しができるケースは、相続人全員が遺産分割協議をやり直すことについて合意した場合や、遺産分割協議において一部の相続人がだまされたり、脅迫されたり、重大な勘違いをしていたりした場合などに限定されています。
特別寄与料の時効を延長することは可能ですか?
特別寄与料の消滅時効について、請求の相手方との合意による時効完成猶予や、時効完成前に相手方に催告、裁判上の請求などを行うことによる時効完成猶予が可能です。
夫の親(被相続人)を介護した妻にも寄与分は認められますか?
夫の親(被相続人)を介護した妻については、寄与分は認められませんが特別寄与料は認められます。特別寄与料の制度は、こうした場合に妻が法定相続人にあたらないことから寄与分が認められないことの不公平を是正するために設けられました。
寄与分はできるだけ早い段階で主張することをおすすめします。まずは弁護士にご相談下さい。
上で説明したように、寄与分に時効はありませんが、遺産分割が終了してしまうと実質的に寄与分を主張することはできなくなってしまいますので、相続開始後、早めに主張しなければなりません。また、特別寄与料には消滅時効と除斥期間があるため、期限が来る前に請求を行い、場合によっては時効完成猶予に向けた手続も必要となります。寄与分や特別寄与料の主張について、弁護士であれば、寄与があったという主張・立証の組み立てやそのための証拠収集のサポート、裁判所での調停・審判の手続や時効完成猶予に向けた手続への対応など、さまざまなことでお力になれます。寄与分のことでお悩みでしたら、まずはお早めに弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)