監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
遺産分割協議において、各相続人がどれだけの遺産を相続するかは話合いで自由に決めることができますが、民法には相続人の順位(子、親、兄弟姉妹など被相続人との関係)に応じた相続分の割合が定められ(法定相続分)、それに従うこともできます。もっとも、法定相続分に従う場合でも必ずしもその割合通りに相続されるとは限らず、被相続人の生前に相続人との間にあった事情により修正されることもあります。その一つが「寄与分」です。
目次
寄与分とは
寄与分とは、被相続人の生前にその財産の増加・維持に貢献した相続人がいる場合に、遺産分割に際してその貢献について加味することで、相続人間の公平を図る制度です。被相続人の生活に貢献した相続人と何もしていない相続人とで得られる遺産が変わらないというのでは不公平になることから、このような制度が設けられています。
寄与分請求の要件
寄与分が認められるには、被相続人のために何かをしたというだけでは足りず、以下に説明するような要件を満たしている必要があります。
共同相続人であること
寄与分が認められるには、被相続人の法定相続人である必要があります。法的に相続人となる親族ではない人が被相続人のために何か貢献したとしても、この要件を満たさないことから、寄与分は認められません。
ただし、被相続人の相続人ではない親族(被相続人の子の配偶者など)については、無償で被相続人の療養看護などの労務を提供して財産の維持・増加に貢献した場合(「特別の寄与」)、その寄与に応じた額の金銭の支払いを相続人に対して請求することができます。
財産が維持・増加していること
被相続人の財産が維持され、あるいは増加していることが要件となります。相続人が被相続人のために何かしていたとしても、財産が維持され、あるいは増加していなければ、この要件を満たしません。
財産の維持・増加と因果関係があること
相続人が被相続人に貢献したと言う事実と、被相続人の財産が維持され増加したという事実があっても、それらの事実が無関係であれば相続人の行為により被相続人の財産が維持・増加したとはいえません。相続人による寄与(貢献)と財産の維持・増加に因果関係があることが必要となります。
期待を超える貢献があること
被相続人への貢献は、親族間で通常期待される身の周りの世話などを超えるものでなければなりません。民法上、親子や兄弟、夫婦間にはお互い助け合う義務があり、一定程度の身の周りの世話や経済的援助は通常期待されるものであるため、それを超える貢献をしたといえる必要があります。
寄与分の種類
被相続人への貢献の仕方、つまり寄与分の種類には、次に説明するようにいくつかの類型があります。
家事従事型
相続人が被相続人の行っていた事業に無償あるいは一般的な報酬よりもかなり低額な報酬で従事したことで、被相続人の財産の形成・維持に寄与したというパターンです。一時的な手伝いなどではなく、長期間継続して従事していることが必要となります。
金銭出資型
相続人が被相続人の行っていた事業に資金援助をしたり、事業に用いる土地や建物を提供したりするなど、労務ではなく金銭等を出資することで被相続人の財産の形成・維持に寄与したというパターンです。
扶養型
相続人が被相続人を扶養し、被相続人が自身の生活にかかる生活費等の支出をしなかった分、財産を維持できたという形で寄与したパターンです。相続人と被相続人の間に通常存在する範囲の扶養義務を超えた扶養を行ったことが必要となります。
療養看護型
相続人が被相続人を療養看護したことで、被相続人が療養看護費用を支出しなかった分、財産の維持に寄与したパターンです。このパターンでも、通常以上の療養看護を行ったことが必要となります。
財形管理型
相続人が被相続人の財産を管理したり、維持にかかる費用(固定資産税など)を出したりしたことで被相続人の財産の維持・増加に寄与したというパターンです。
寄与分を主張する相続人が複数いる場合はどうなる?
寄与分を主張する相続人が複数いる場合、それぞれの相続人の寄与が認められる限り、その寄与の程度に応じて寄与分が認められます。被相続人への貢献を反映して公平に遺産を分割するための寄与分制度であるため、寄与分が認められる相続人間に優先順位などはありません。
寄与分決定までの流れ
寄与分を主張する相続人がいる場合、その主張する貢献について寄与分が認められるのか、認められるとしていくらになるのかについて何らかの手続で決定する必要があります。
遺産分割協議で寄与分を決める
遺産分割について決めるにあたっては、まず相続人間の話合い(遺産分割協議)が行われることになり、寄与分についてもその遺産分割協議の中で話し合われ、相続人間で合意できれば寄与分の有無や金額が決まります。
協議で決まらない時は調停へ
当事者間の話合いである遺産分割協議では決まらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、その中で寄与分について決めることもできますし、調停で決めるべき争点が寄与分のみであれば、「寄与分を定める処分調停」という調停を申し立て、その中で決定することもできます。
それでも決まらない場合は裁判(審判)・即時抗告へ
調停をしても決まらない場合は審判となり、裁判官に判断を委ねることになります。審判による決定に不服があれば、即時抗告という、裁判でいうところの控訴のような手続を申し立てることになります。
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寄与分の計算方法
すでに説明したように、寄与分の発生原因となる貢献にはいくつかの類型がありますが、類型によって寄与分の計算方法は異なってきます。
家事従事型(事業従事型)の計算方法
家事従事型の場合、寄与分の金額は、
労働に見合う年間の給与額×従事した年数
で計算します。労働に見合う年間の給与額がいくらになるのかが問題となりますが、賃金センサスという賃金の統計をもとに、同年代の人が同種の業務に従事した場合の平均賃金から算定します。
少ないながら給与をもらっていた場合には、上記の計算からもらった給与分を差し引きます。
金銭出資型の計算方法
金銭出資型の場合、出資・提供した金銭や不動産の価値を評価することで計算します。
金銭の場合、
出資した当時の金額×貨幣価値変動率(※出資から相続まで長年が経過している場合)×裁量的割合
不動産の場合、
相続開始時の評価額×裁量的割合
となります。裁量的割合とは、個々の事案の事情に応じて裁判所が判断する割合のことで、多くの場合、提供した金銭等の価額がそのまま寄与分の金額になるものではないということになります。
扶養型の計算方法
被相続人の扶養という形で寄与した場合、相続人が扶養のために負担した金額が寄与分の金額となります。介護施設の費用等を支出したという場合は分かりやすいですが、同居して被相続人の生活費を負担したという場合、相続人自身の生活費と区別して被相続人のために支出した金額を算定するのは難しいため、生活費についての統計を参考にするなどして算定します。
療養看護型の計算方法
被相続人がプロの介護人の療養看護を受けるにあたっての費用を相続人が負担した場合、その負担した実額が寄与分の金額となります。
相続人自身が被相続人を療養看護した場合、同じ療養看護をプロの介護人が行った場合に支払う費用をもとに計算します。つまり、
プロの介護人による療養看護の日当×療養看護した日数×裁量的割合
となります。
財産管理型の計算方法
不動産の固定資産税や修繕費用などの維持管理に必要な支出を負担することで貢献した場合は、その額が寄与分の金額となります。
相続人自身が被相続人の財産を管理していた場合、その管理を弁護士等のプロに依頼した場合の費用を基準として計算します。つまり、
財産管理のプロへの依頼費用×裁量的割合
となります。
寄与分が認められるケース
寄与分が認められるのは以下のようなケースです。
夫の会社でヒット商品の開発に貢献した場合
単に配偶者の事業を手伝うにとどまらず、ヒット商品を開発したりして事業の発展、ひいては配偶者(被相続人)の財産の形成に貢献した場合、寄与分を得られる可能性が高くなります。
ただし、寄与の仕方の類型によっては増加・維持された財産の金額の絶対的評価ではなく、貢献の度合いに応じた相対的評価で算定されることもあり、このケースでもヒット商品による収益の金額そのものではなく、被相続人(夫)の財産の総額と、事業での貢献が夫の財産の増加に寄与した割合から算定することになるでしょう。
兄弟で出資をしていた場合
兄弟で出資をしていた場合、たとえば被相続人が不動産を購入するにあたり、兄弟で資金を出し合って援助した場合、寄与分は、「相続開始時の不動産価額×それぞれの兄弟(相続人)が取得に寄与した割合」となり、「それぞれの兄弟が取得に寄与した割合」は、「不動産の取得当時の価格に対し、それぞれの兄弟が出資した金額の割合」となります。
貸したお金が返済されないまま亡くなった場合
被相続人にお金を貸したまま亡くなった場合、お金を貸した相続人は、貸していたお金について金銭出資型の寄与分として請求することはできません。この場合、その相続人が貸したお金という被相続人の借金を相続した他の相続人に対して貸金返還請求を行い、返済を受けることになります。
介護費用を全額出した場合
被相続人の介護費用を全額出した場合、その負担した金額が親族間の扶養義務として期待される範囲を超えるものであれば、寄与分の金額として反映されます。負担した実費を基準として寄与分が算出されることになりますが、金銭出資型の寄与分として、負担した実費の額に貨幣価値の変動率と裁量的割合を乗じて計算するという考え方もあります。親族間の扶養義務として期待される範囲内の負担であれば、寄与分は認められません。
寄与分が認められないケース
以下のようなケースでは、通常、貢献があっても寄与分としては認められません。
夫の仕事を無償で手伝っていたが離婚した場合
被相続人の死亡時点での配偶者は相続人となりますが、離婚した元配偶者は相続人にあたらず、たとえ婚姻中に被相続人の仕事を無償で手伝い、財産の形成・維持に貢献していても、寄与分は認められません。
父の会社に従業員として勤めて経営を支えていた場合
家事従事型の寄与分が認められるのは、被相続人の事業が個人事業である場合です。被相続人の事業が株式会社などの法人である場合、法人と被相続人の財産は区別されるため、相続人が従業員として事業を支えた場合も、被相続人個人の財産形成に貢献したとはみなされません。ただし、法人であっても実質的に被相続人の個人企業で、事業への貢献が被相続人個人の財産形成に強く関わっていることが明らかといえる場合は、寄与分が認められる可能性があります。
義両親を介護していた場合
寄与分が認められるのは法定相続人に限られるところ、被相続人の子の配偶者は法定相続人にあたらないため、寄与分は認められません。しかし、無償で被相続人の療養看護などを行ったことが特別の寄与にあたるとして、金銭の支払いを相続人に対して請求することができます(2.1参照)。また、義両親と養子縁組して法定相続人になった、遺言書に財産を遺贈する旨が書かれていたなどの事情がある場合、遺産を相続することになります。
仕送りをしていた場合
被相続人に仕送りをしていた場合、金銭出資型ではなく扶養型になります。被相続人との関係から親族間の扶養義務として通常期待される範囲内の仕送りであれば、寄与分は認められません。通常期待される範囲を超えて仕送りをしていたような場合、寄与分が認められることになります。
寄与分を認めてもらうのは難しいため、弁護士にご相談ください
寄与分にはいくつかの類型がありますが、いずれの類型にも相続人の貢献と被相続人の財産の増加との因果関係や、親族間の扶養義務を超える貢献であるか否かなど判断が難しい部分があり、相続人の中に寄与分を主張する人がいる場合、他の相続人との間で争いになることが少なくありません。寄与分として認められる金額についても同様です。被相続人への貢献について寄与分の主張をお考えの方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)