監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
遺留分が問題となるケースは、被相続人が遺言書を作成している場合がほとんどです。被相続人が作成した遺言書の内容の中に、「遺産を一人に集中させる」旨の記載があった場合、遺留分侵害額請求を請求することが考えられます。
ここでは、遺留分侵害額請求について、ご説明いたします。
目次
遺留分侵害額請求とは
遺留分侵害額請求とは、一定の法定相続人に認められている最低限の遺産の取得分のことをいいます。
平成30年民法改正により、遺留分減殺請求に代わって規定された制度であり、不動産等の返還を求めるものではなく、金銭を支払うように請求することができるようになりました。
遺留分侵害額請求の方法
①相手方に遺留分侵害額請求の意思表示を行う
②相手方と話し合う(協議)
③合意できたら和解書を作成し、遺留分を受け取る。
④合意できなかったら調停を行う。
⑤調停でも合意できなかったら訴訟する。
相手方に遺留分侵害額請求の意思表示を行う
遺留分侵害額請求権の行使については、遺留分を侵害する遺贈や遺産の贈与を受けた者に対して、意思表示を行わなければなりません。その意思表示については、裁判上の請求である必要はなく、以下で述べるとおり、内容証明郵便を送付することで足ります。
相手方と話し合う(協議)
内容証明郵便等により相手方へ意思表示を行った以降、相手方と遺留分侵害額の金額について協議することになりますが、金額について合意できないことも少なくありません。もっとも、以下で述べるように、調停や裁判になってしまうと解決するまでに時間がかかってしまうことから、相手方との協議により遺留分侵害額の金額について協議するメリットはあります。
合意できたら合意書を作成し、遺留分を受け取る。
相手方との協議の結果、遺留分侵害額の金額について合意できた場合、合意した内容を記載した合意書を作成するようにしましょう。合意書を作るメリットは、後から合意した内容を蒸し返されることを防止することができる点にあります。
合意書に記載する事項については、弁護士に相談するとよいでしょう。
合意できなかったら調停を行う。
相手方と協議したにもかかわらず、遺留分侵害額の金額等で合意することができなかった場合には、家庭裁判所に対して、遺留分侵害額請求の調停を申し立てることを検討しましょう。相手方との協議がまとまらない状況が続けば、時間だけが経過してしまう可能性があるからです。
遺留分侵害額請求に関しては、調停前置主義という考え方が採用されているため、いきなり訴訟を提起することはできず、調停を先に申し立てなければなりません。
調停を申し立てた後は、家庭裁判所において遺留分侵害額請求の話し合いをすることとなります。
調停でも合意できなかったら訴訟する。
家庭裁判所での話し合いでも、遺留分侵害額の合意ができなかった場合には、調停が不成立になり、調停自体が終了することとなります。
その場合には、家庭裁判所に対して、遺留分侵害額請求訴訟を提起し、総合的な解決を求めることをお勧めします。
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特別受益・生前贈与がある場合の遺留分減殺請求の注意点
被相続人から遺贈を受けていた場合や被相続人の生前に贈与を受けていた場合等、特別受益・生前贈与がある場合には、遺留分侵害額を計算する上で、考慮しなければなりません。
原則として、相続開始前の1年間にした贈与については、遺留分侵害額請求の対象となります(民法1044条1項前段)が、相続人に対する遺贈や贈与については、相続開始前の10年以内に行われた遺贈や贈与が、遺留分侵害額請求の対象となります(民法1044条3項)。
他方、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をした場合には、相続開始前の1年以上前に行った贈与についても、遺留分侵害額請求の対象となります(民法1044条1項後段)。
複数の人に対して遺贈や生前贈与を行っている場合
被相続人が複数の人に対して遺贈や生前贈与を行っている場合、遺留分権利者は、誰に対して遺留分侵害額請求権を行使するべきなのでしょうか。
この場合について、民法1047条に規定されており、遺留分侵害額請求の相手方になるのは、①受遺者と受贈者があるときは、受遺者が先に相手方となり、②受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合には、遺贈や生前贈与の価額の割合に応じて負担する、③受贈者が複数あるときは、後の受贈者から順次前の受贈者が相手方になることになります。
税金がかかるケース
遺留分侵害額は相続税に影響を与えることになります。相続税を申告する際に、遺留分侵害額の金額が確定していない場合には、遺留分侵害額請求権が行使されていないものとして、相続税の申告をすることになります。その後、遺留分侵害額の金額が確定した際、更生の請求や修正申告等を行うこととなります。
請求には時効がある
遺留分侵害額請求権は、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年」以内に行使しなければなりません(民法1048条前段)。それは、法律関係を早期に安定させることを目的とされているためです。
他方、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったこと」を知らなかったとしても、相続開始のときから10年経過したときは、遺留分侵害額請求権が消滅してしまう(民法1048条後段)ので、注意が必要です。
遺留分侵害額請求のお悩みは弁護士にご相談ください
遺留分を算出する際、特別受益や生前贈与があった場合に、遺留分侵害額はどのように計算するのか等と、複雑な事項が複数存在しています。
遺留分侵害額請求をするとしても、どのような手段により相手方へ遺留分侵害額を請求すればいいのか、不安を抱えている方も多いと思います。
遺留分に関する事件を数多く取り扱っている弊所の弁護士であれば、少しでもご依頼者様のお力になれると考えています。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)