監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
「自分には配偶者も子どももいないから、相続のことは考えなくていい」
——そう思っていませんか。50歳時点で結婚経験のない方は、男性の約28%、女性の約18%にのぼります(2020年国勢調査)。
しかし、独身の方であっても、法律で決まった相続人(法定相続人)がいることは珍しくありません。
反対に、相続人が一人もいない場合、財産は、最終的に国のものになることがあります。
この記事では、相続人は誰になるのか、いない場合はどうなるのか、今からできる備えは何かを、弁護士がわかりやすく解説します。
独身者の定義は「配偶者がいないこと」
相続の場面で「独身かどうか」を分けるのは、婚姻届を出した配偶者(法律上の配偶者)がいるかどうかです。
民法は、配偶者は常に相続人になると定めていますが、配偶者がいない方には、この規定が働きません。
次のような方は、いずれも「配偶者がいない人」として扱われます。
- 一度も結婚したことがない方
- 離婚した方(元配偶者に相続権はありません)
- 配偶者に先立たれた方
- 長年一緒に暮らしているが、婚姻届を出していない方(内縁・事実婚)
とくに内縁・事実婚のパートナーは、何十年連れ添っていても法定相続人にはなりません。
最も見落とされやすい点ですので、ご注意ください。
民法890条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第887条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
独身者がなくなった場合の法定相続人は誰?
配偶者がいない場合、誰が相続人になるかは民法の定めた順位で決まります。
上の順位に該当者がいれば、下の順位の方は相続人になりません。
子供がいる場合は子供だけが相続人になる
第1順位は子です(民法887条1項)。配偶者がいない方に子がいれば、財産は子だけが相続し、親や兄弟姉妹は相続人になりません。
実子・養子の区別はなく、認知された子も同じです。
子がすでに亡くなっていれば孫が、孫も亡くなっていればひ孫が相続人になります(代襲相続。民法887条2項・3項)。
民法887条1項 被相続人の子は、相続人となる。
子供がいない場合は父母
子も孫もいない場合、第2順位として父母が相続人になります(民法889条1項1号)。
父母がともに存命であれば、二人が2分の1ずつを相続します。
「もう親はいないだろう」と考えがちですが、長寿化により、60代・70代の方の90代の親が相続人になる例もあります。両親が離婚していても親子関係は続くため、相続権は失われません。疎遠かどうかは関係ありません。
父母がいない場合は祖父母
父母がすでに亡くなっている場合、同じ第2順位の中で祖父母が相続人になります。
民法889条1項1号ただし書が、親等(世代の近さ)の異なる直系尊属の間では近い方を先にすると定めているためです。
これは、子の代わりに孫が相続する「代襲相続」とは仕組みが異なります。
祖父母は父母を代襲するのではなく、自分自身の資格で相続人になります。
民法889条1項1号 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
父母、祖父母がいなければ兄弟姉妹
子(孫)も直系尊属(父母・祖父母)もいない場合、第3順位として兄弟姉妹が相続人になります(民法889条1項2号)。独身の方の相続では、このケースが多く見られます。
注意したいのが相続分です。父母の一方だけが同じ兄弟姉妹(異母・異父きょうだい)の相続分は、父母の双方が同じ兄弟姉妹の2分の1です(民法900条4号ただし書)。
親の再婚などで、面識のない兄弟姉妹が相続人になることもあります。
兄弟姉妹がいない場合は姪甥
兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合は、その子である甥・姪が代わって相続人になります(民法889条2項が同法887条2項を準用)。
ただし、この代襲は一代限りです。
子の系統では孫・ひ孫と代襲が続きますが(民法887条3項)、兄弟姉妹の系統ではこの規定が準用されていないため、甥・姪の子は相続人になりません。
それ以外は相続人不存在となる
ここまで挙げた方が誰もいない場合、法律上は「相続人のあることが明らかでない」状態となり、相続財産は法人(相続財産法人)として扱われます(民法951条)。
これが「相続人不存在」です。
相続人がいても、全員が相続放棄をした結果として相続する人がいなくなった場合も同じ扱いです。なお、相続人の有無は戸籍をたどって初めて確定します。
「いないと思っていたら甥がいた」という例も少なくありません。
民法951条 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
相続人がいない場合、独身者の財産はどうなる?
相続人がいないからといって、財産がただちに国のものになるわけではなく、次の手順を経ることになります。
相続財産清算人によって、遺産の精算が行われる
利害関係人(債権者、賃貸物件の大家さんなど)または検察官が申し立てると、家庭裁判所は相続財産清算人を選任します(民法952条1項)。清算人には弁護士などが選ばれ、財産を調査・管理し、債務の支払いなどを進めます。
選任と同時に、家庭裁判所は「相続人がいるなら名乗り出てください」という公告を、6か月以上の期間を定めて行います(同条2項)。この制度は令和5年4月1日に見直され、従来の「相続財産管理人」から名称が変わり、手続期間も短縮されました。
民法952条2項 前項の規定により相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。
特別縁故者へ財産分与される
相続人が現れなかった場合、特別に近い関係にあった方(特別縁故者)が申し立てれば、財産の全部または一部を受け取れることがあります(民法958条の2第1項)。
内縁のパートナー、事実上の養子、長年療養看護に尽くした方などが典型例です。
ただし、申立てには「公告期間の満了後3か月以内」という期限があり(同条2項)、認めるかどうかは家庭裁判所の判断によります。
申し立てれば必ず受け取れる制度ではありません。
民法958条の2第1項 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
国庫へ帰属する
債権者への支払いも特別縁故者への分与も終えて、なお財産が残った場合、その財産は最終的に国のものになります(民法959条)。
財務省の審議会資料でも、相続人不存在を理由に国へ引き継がれる不動産は増加傾向にあり、今後も累増が見込まれると指摘されています。
何もしないという選択は、ご自身の希望と異なる結果につながりかねません。
民法959条 前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
独身者が今からできる相続対策は?
財産を誰にどう遺すかは、元気なうちにしか決められません。
代表的な方法を3つご紹介します。
遺言書を作成する
効果が大きいのは遺言書です。お世話になった方、内縁のパートナー、甥・姪のうち特定の一人など、法定相続人でない方に財産を遺すこともできます。
独身の方に特に重要なのは、兄弟姉妹には遺留分(相続人に最低限保障される取り分)がないという点です(民法1042条1項)。
相続人が兄弟姉妹だけなら、遺言の内容が実現されやすくなります。
方式には自筆証書遺言(民法968条)と公正証書遺言(民法969条)があります。
自筆証書遺言は法務局の保管制度を使えば、家庭裁判所の検認手続が不要になります(遺言書保管法11条)。
なお、令和8年6月公布の改正法で、電子データ等で作成し、法務局において保管する「保管証書遺言」の創設が予定されています。ただし施行日は今後政令で定められるため、現時点では従来の方式で作成する必要があります。
エンディングノートを作成する
エンディングノートは、財産の一覧や交友関係、医療・葬儀の希望などを書き留めておくノートです。書式は自由で、いつでも書き直せます。
ただし、法律上の効力はありません。民法の定める遺言の方式を満たしていなければ、「この財産を誰々に」と書いても、そのとおり実現されるとは限りません。
財産の行き先は遺言書、それ以外の希望や連絡先はエンディングノート、と役割を分けるのが現実的です。
葬儀や納骨、住まいの片づけを託したい場合は、死後事務委任契約の利用も検討しましょう。
寄付する
遺したい相手が思い当たらない場合、遺言によって公益団体や母校、自治体などに寄付する「遺贈寄付」という選択肢もあります。
もっとも、受け入れ先が不動産などの現物を受け取れるとは限りませんので、事前の確認が欠かせません。
また、不動産や株式をそのまま法人に遺贈すると、値上がり益に所得税が課される場合があります。税務の取扱いは複雑なため、税理士へのご確認をおすすめします
独身の方の相続に関するお悩みは弁護士にお任せください
独身の方の相続は、「そもそも相続人がいるのか」を戸籍で確定するところから始まります。兄弟姉妹や甥・姪が相続人になる場合、集める戸籍が多く、調査に時間がかかることも珍しくありません。
また、遺言書は方式を誤ると無効となるおそれがあり、内容によっては相続人との争いを招くこともあります。
ALGでは、相続人の調査から遺言書の作成、遺言執行者への就任まで、状況に応じたご提案をしております。「何から手をつければよいかわからない」という段階でも構いません。
まずはお気軽にご相談ください。

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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
