監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
長年の夫婦生活のなかで、「さまざまなことがひと段落したとき」や「新たな不満がたまったとき」等の場合に、離婚を決断するケースがあります。いずれにしてもポイントは“当事者が熟年(中年・高齢者)にあたる”という点です。このような離婚を熟年離婚といいます。
熟年離婚は、子供にかかわる懸念はないものの、退職金を含む財産分与や年金分割といったお金にかかわる決め事はそれらの金額が高額となる可能性もあるため、慎重に検討すべきです。
ここでは、熟年離婚についてわかりやすく解説しますので、ぜひ参考になさってください。
熟年離婚の原因
熟年離婚に至る原因には、大きく分けて「長年積み重ねた不満」と「新たな不満」があります。
夫の定年退職や、子供の自立、親の介護といった「節目」がきっかけとなるパターンが多いようです。
いくつか詳細をみていきましょう。
相手の顔を見ることがストレス
「相手の顔を見ることがストレス。もう顔も見たくない。」と思ってしまう事態には、必ず原因があるはずです。
いちいち小言を言う、家事を任せきりにする、家庭での様子とは異なり、親戚や知人などには外面が良いなど、どれも些細なことの積み重ねといえます。もしかしたら、今までも感じていたかもしれません。
しかし、定年退職や子供が自立したことで“夫婦2人でいる時間が増えた”となると、事情は一変します。
一日の大半を一緒に過ごす中で、今まで積み重なった不満を我慢できなくなったり、今まで気づかなかった新たな不満が生じたりして、相手の顔を見るだけでストレスを感じ、離婚を決意するケースがこれにあたります。
価値観の違い、性格の不一致
価値観の違いや性格の不一致は、例年離婚原因のランキング上位を占めています。
熟年離婚としては、結婚当初からの積み重ねや、今まで目を瞑ってきた事柄についても、夫婦2人で過ごす時間が増えたことで我慢しきれなくなってしまったといった、「我慢の限界」により離婚に踏み切るパターンが多いです。
定年退職や子供の自立に加えて、世の中の価値観が多様化してきたことも後押しとなり、熟年離婚を決断する方もいます。
夫婦の会話がない
長年連れ添っていく中で、言葉や会話はなかったとしても、お互いことを「空気のような存在」に感じ、かけがえのない存在といえる夫婦もいます。
一方、会話がないことで孤独を感じたり、すれ違いが生じたり、意地を張ったりして、溝が深まってしまう夫婦もいます。「ありがとう」「ごめんなさい」日頃の挨拶といった、当たり前ともいえるコミュニケーションがないことが「蓄積」してしまうと、少しずつ不満がたまって生じた溝を埋めることができずに離婚を選択する熟年夫婦もいます。
子供の自立
離婚したいと思ったとしても子供の存在により、離婚を思いとどまる人も少なくありません。
このため、離婚に歯止めをかけ思いとどまらせてくれた子供が成人し自立すると、離婚をしない理由がなくなってしまうのです。
子供が自分たちの手を離れ、「第二の人生」を送ろうと考えたとき、今まで我慢してきたことから解放されたい、残りの人生を有意義に過ごしたい、といった思いから、離婚に踏み切る熟年夫婦もいます。
借金、浪費癖
借金や浪費癖といった、お金に関する問題は、熟年夫婦にとってさらに深刻なものとなります。
今までどうにかやりくりできていたことも、定年退職し安定した収入が限られてしまうと、生活に余裕がなくなり融通がきかなくなってしまうおそれがあるからです。
また、夫婦2人でいる時間が増えることによって、新たに借金が発覚したり、気づかなかった浪費癖が判明したりして、老後に不安を覚える人もいるでしょう。
いずれにしても、借金・浪費癖といったお金に関する問題は、他の年代と同じように熟年夫婦にとっても離婚を決意する原因のひとつとなります。
介護問題
熟年夫婦にとって、義両親や自分の親の介護を行わなければならなくなる家庭も多いため、介護問題は深刻であるといえます。
介護については、精神的にも体力的にも大きな負担があるなか、配偶者によるサポートがなかったり、労いや感謝の言葉がなかったりすると、すべてを投げ出したくなり離婚を切り出す人もいます。ましてや、介護の対象が血のつながりのない義両親ともなると、その思いはより強くなるでしょう。
熟年離婚に至るにあたり、介護問題もまた影響の大きい一因です。
熟年離婚に必要な準備
当たり前のことですが、熟年離婚後も生活していかなければなりません。
生活していくためには何が必要か、事前にしておくことは何かなど、具体的なことをイメージしつつ“計画的に”準備を進める必要があります。
熟年離婚の場合、年代的な留意事項もありますので、以下のようなことを意識して入念に準備をしましょう。
就職活動を行う
離婚後の衣食住の確保・維持には、経済的に安定することが必要不可欠といえます。安定した収入を得るためにも、就職活動を行いましょう。
とはいっても、「この歳になって働き始めるなんて難しいのではないか…」と不安に思われる方もいるでしょう。まずは、毎月の収支を把握し、今後の収支を想定し、資格を取ったり、パソコンスキルを身につけたりして、働く準備を着実に行うことが有用です。就職して安定した収入を得るためにも、計画的に進めることがポイントとなります。
味方を作る
「いざ」という時の味方を作っておくことは、熟年離婚をする上でとても大切なことです。
ある程度歳を重ねての離婚は、急に一人になって孤独を感じやすくなったり、体力的にしんどくなったり、経済的に困ってしまったりすることもあります。そんなとき、サポートしてくれる味方の存在は、心強く、安心感を与えてくれます。
また、協議離婚や調停離婚で解決することができず離婚裁判に発展した場合でも、味方が証人となってくれる可能性もありますので、離婚前から相談をしておくといったことを心がけておくと良いでしょう。
住居を確保する
離婚するときは、住居を確保することも非常に重要です。
そのまま今の住宅に住み続けることができるのか、出て行かなければならないのかによって、対策が変わってきます。
また、熟年離婚の場合、持ち家であるケースも多く、どちらの持ち分にするのか、売るのかといった財産分与が絡んでくる可能性があります。
引っ越すことを想定する場合、物件探しに時間がかかる可能性もあります。離婚前に、余裕をもってある程度目星をつけておいた方が良いでしょう。
財産分与について調べる
熟年離婚の場合、夫婦で築き上げた共有財産が大きい可能性が高いため、離婚前にしっかりと調べておく必要があります。
具体的には、住居も然り、貯金や自動車、家具・家電、資産運用のための有価証券・投資信託など多岐に渡ります。へそくりもまた、財産分与の対象となります。
そして注意すべきは、マイナスの財産も対象となり得るという点です。
生活費や医療費、学費などの借金といったマイナスの財産についても、財産分与の対象となる可能性がありますので、入念に調べておくとよいでしょう。
専業主婦(専業主夫)の場合は年金分割制度について調べておく
熟年離婚を考えているなら、年金も貴重な収入源となります。
かつて専業主婦(専業主夫)がもらえるのは国民年金のみでしたが、2007年の年金法改正により、配偶者の厚生年金の2分の1を受けられるようになりました。これを「3号分割」といい、対象となるのは「婚姻期間中の納付実績の2分の1」と決まっています。
相手の合意がなくても受給できる点は非常に大きいので、対象となる期間や金額など、できるだけ詳細に調べておくことをおすすめします。
退職金について把握しておく
熟年離婚の場合、退職金も財産分与の対象となる可能性がありますので、事前に把握しておくことが重要です。「婚姻期間に相当する分」と定めはあるものの、熟年夫婦の場合、財産分与の対象となる退職金は、相当程度の金額となることも珍しくはありません。
基本的に2分の1ずつ財産分与することになりますので、老後に向けた貴重な資金源にもなり得ます。可能であれば就業規則を確認するなどして、期間や金額を把握できるようにしておきましょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
熟年離婚の手続き
熟年離婚だからといって、特別な手続きをする必要はありません。一般的な離婚手続きと同じように進めていきます。
まずは、夫婦間の話し合い・協議によって離婚条件の合意を目指します。
合意が難しければ、家庭裁判所に対して離婚調停を申し立て、家庭裁判所で協議を行います。
離婚調停も成立しなかった場合、離婚裁判を申し立て、裁判所に判断をあおぐこととなります。
熟年離婚は、親権や養育費の決め事は少ないものの、財産分与や年金分割といったお金に関する決め事が多くなりがちですので、協議の場合は特に慎重に手続きを進めなければなりません。
熟年離婚で慰謝料はもらえるのか
DVやモラハラ、浮気や不倫などが熟年離婚に至る原因である場合、慰謝料をもらえる可能性があります。このほか、生活費を渡してもらえなかった、家に帰ってこない日が続いたなどの場合も、慰謝料請求が認められることがあります。
いずれにしても慰謝料を請求するためには、「証拠」が不可欠です。写真や録音、記録など、できるだけ「物的証拠」の収集を意識し、必要に応じて弁護士に相談することも検討した方が良いでしょう。
退職金は必ず財産分与できるわけではない
注意しなければならないのが、必ずしも退職金の全額を財産分与できるわけではないという点です。
「婚姻期間に相当する分」が対象となりますので、「結婚前の分」や「離婚後の分」は“対象外”となります。とはいえ、配偶者が長年勤め上げるために支えてきたわけですから、婚姻期間に相当する退職金は財産分与として請求するべきといえます。
退職金は、「すでに支払われている場合」と「支払われていない場合」で扱いが異なりますので、詳細をみていきましょう。
退職金がすでに支払われている場合
退職金がすでに支払われている場合は、その退職金が「残っているか」が重要です。
財産分与すべき退職金が残っていれば、財産分与として婚姻期間に相当する退職金の2分の1ずつを分けることとなります。
一方、退職金が残っていないケースでは、分与されるべき退職金がありませんので「分けようがない」といった状況となってしまいます。この場合は、使用する前にさかのぼって退職金の半分を請求することはできません。
ただし、相手方が何ら相談もなしに退職金を浪費したために退職金の全額を使い切ってしまったなどの事情がある場合には、ほかの財産の分与において割合が考慮される可能性があります。
退職金がまだ支払われていない場合
離婚日よりも退職日や振込日の方が後になるなど、退職金がまだ支払われていない場合は、「支給の確実性」がポイントとなります。具体的には、以下に挙げるような事柄を主張し、退職金が支給される可能性が高いことを立証しなければなりません。
- 会社の規模
- 就業規則への規程の有無
- 勤続年数
- 定年退職までの年数
退職金の算定にあたっては、離婚時を退職日と仮定したり、定年退職日を迎えると仮定したりするなどの方法があります。基本的に「婚姻期間に相当する分」の退職金は財産分与の対象となりますので、「退職金が支給される可能性が高いこと」を立証できるような証拠収集に努めましょう。
熟年離婚したいと思ったら弁護士にご相談ください
厚生労働省の統計によると、今日の離婚件数のうち「5組中1組」が熟年離婚であることが明らかとなっています。高齢化社会のなかで、高齢者のセカンドライフ・女性の社会進出の充実が熟年離婚を後押しする風潮があるともいえるでしょう。しかし、熟年離婚にはリスクが伴うのも事実ですので、熟年離婚を決意したら事前準備をしっかりと行わなければならなりません。
この点、弊所の弁護士は、数多くの熟年離婚を扱っているため、的確にアドバイスすることが可能です。熟年離婚という相当な覚悟を持った決断をかなえるために、弊所の弁護士が法的にサポートします。お気軽にご相談いただけますので、まずはお電話にてお問い合わせください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)