
監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
本当は離婚したいけれど、経済的な負担が大きくなることや、周りの人への影響を考え、別居ができず、「家庭内別居」の状態になっている方も多いのではないかと思います。
経済的、社会的な事情から「家庭内別居」を選択せざるを得ない場合もあると思われますが、同じ家に住んでいて、ほとんど会話が無いと、子供の精神的に悪影響を与える可能性もありますので、専門家の判断を仰いだうえで「家庭内別居」をするか別居をするかについては、慎重に判断すべきでしょう。
本記事では、「家庭内別居」のメリット、デメリットを説明させていただいた上で、「家庭内別居」の注意点について詳しく解説させていただきます。
目次
家庭内別居で離婚することはできるのか
家庭内別居でも離婚をすることは可能ですが、認められるハードルが高くなる可能性があることに注意する必要があります。我が国の裁判所では、「婚姻関係の破綻」と評価される場合には、離婚を認める傾向にあります。「婚姻関係の破綻」の具体例としましては、日常会話や生活での交流がほとんどないことや、性的関係がない、家計(お財布)が完全に分離している、寝室等の生活空間が分離している、家族の行事に一緒に参加しない等が挙げられます。
これらの事情が長期間にわたり継続しているのであれば、「実質的な別居」として扱われ、離婚原因として認められることもあるといえるでしょう。
家庭内別居を選ぶ理由
家庭内別居を選ぶ理由としては、様々な理由が考えられますが、子供への負担が小さいこと、経済的な負担が少ないこと、世間体を守れること、面倒な手続きを経る必要がないことが、主な理由として考えられるところです。
以下で、それぞれの理由についてご説明させていただきます。
子供への負担が小さい
子供への負担を減らすために家庭内別居を選択することが考えられます。子供が小さい時は、両親と一緒に生活することで安心感を与えられると考える親が多く、未だ精神的に安定していない子供を思い、家庭内別居を選択することがあります。
また、離婚することによって、引っ越しや転校を余儀なくされると、生活環境や人間関係が大きく変化することになり、それが子供の精神的な負担になることが考えられます。現在の生活環境や人間関係を維持するために家庭内別居を選択することもあります。
経済的な負担が少ない
経済的な負担が少ないことから、家庭内別居を選択することがあります。離婚して別居すると、実家に帰る以外には、新たに住居を借りる必要があり、家賃・敷金・礼金・引っ越し費用等の様々な費用が発生します。これに対し、家庭内別居であれば、同じ家に住み続けることができるため、これらの費用を抑えることができます。
また、同じ家に住むことによって、光熱費や食費、日用品の購入費等の生活に係る費用を共有することができるため、コストを抑えることができます。このような経済的な負担を少しでも減らすために家庭内別居を選択する方もいらっしゃいます。
世間体を守れる
世間体を守れることについても、家庭内別居を選択する理由の1つです。
同じ家に住んでいることから、家族からは、「普通の夫婦」として見られたり、実際には関係が冷え切っている状態であっても、外からは気づかれにくかったりします。このように、日本では未だ離婚に対する偏見が強く、世間体を気にして離婚を避けるケースがあります。
また、両親が離婚した事実を子供の友人に知られることにより、いじめの対象となることを避けるため、家庭内別居を選ぶこともあります。
面倒な手続きをせずに済む
離婚や別居をする場合には、転出届や転入届などの住民票を移す手続きや名字を変える手続きが必要となる場合があります。また、離婚の条件で揉めている場合には、法的な離婚手続き(離婚調停、離婚裁判)を行う必要がありますが、「家庭内別居」ではそのような法的手続きは不要となるため、面倒な手続きをせずに済むというメリットがあります。
家庭内別居のデメリット
「家庭内別居」について、上で説明させていただいたメリットもありますが、デメリットとなる可能性もございます。
同じ家にいるだけでストレスを感じる
「家庭内別居」といっても、同じ家に住んでいるわけですから、顔を合わせる機会を避けることは難しいといえます。顔を見るといった些細なことでイライラしたり不快な気持ちになったりする可能性があります。
また、会話が全く無かったり、無視されてしまったりなどの状況が続くと、孤独感や不安な気持ちになることも考えられ、そのような精神的苦痛を感じられる場合であれば、別居することを選択視に入れるべきでしょう。
家庭内別居を理由に離婚を認めてもらうことは難しい
裁判離婚が認められるためには、「婚姻を継続しがたい事由」が認められる必要がありますが、単に会話が無かったり、生活が別々になっていたりするだけでは、「婚姻を継続しがたい重大な事由」が認められない可能性があります。
「婚姻関係の破綻」と認められる可能性があるケースとして、例えば、数年間という長期間にわたり一切の会話が無い、経済的・精神的なつながりが完全に断たれていること、双方とも関係を修復する意思が全くないこと、精神的苦痛や健康被害が生じていることが考えられ、このような事情があれば、「婚姻関係が破綻」していると認められる可能性があります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
家庭内別居から完全別居する場合の注意事項
民法では、夫婦は同居しなければならない(同居義務といいます)との定めがあり、原則として同居する必要があります。そのため、別居するためには正当な理由が必要とされています。
正当な理由が明らかに認められるとしても、別居する際には他方配偶者に理由を伝えてから別居するべきです。その際、理由を伝えたこと、どのような理由を伝えたかについて、手紙、メール、SNS等証拠として残る形で伝えることが望ましいといえます。
また、離婚を見据えて別居する場合には、財産分与が問題となりますので、相手の預貯金の口座やどの程度の資産、収入があるかについての資料を予め収集しておくと財産分与で揉めた際に安心でしょう。
子供がいる場合には、子供の連れ去りにならないように注意する必要があります。未成年の子供がいる場合に、子供を連れて勝手に別居してしまうと、子供の連れ去りとして評価される可能性があり、親権獲得に不利になるどころか、未成年者略取・誘拐罪が成立する可能性もあります。このようなリスクを避けるために、離婚後の親権をどちらが持つか、少なくとも子供の監護養育をどちらがすべきかを決めてから別居すべきと言えるでしょう。
家庭内別居と離婚に関するQ&A
それでは、「家庭内別居」と離婚に関するよくある質問にお答えいたします。
家庭内別居をしていた場合、財産分与の対象になるのはいつまでですか?
別居してから離婚をする場合は、別居した時点が財産分与対象財産を確定させる基準の時点となるのが一般的です。
一方で、「家庭内別居」をしていた場合には、完全に家計が分離しているといった事情が無ければ、実際に離婚した時点の財産を基準として判断される可能性があります。これは、財産分与が婚姻中に2人で築き上げた財産を清算する制度であることから、別居せず家計が分離していない以上、夫婦共同の生活が継続していると考えられるためです。
夫婦で会話なし、無視が続く状態は「婚姻関係が破綻している」とみなされますか?
まず、他方配偶者が離婚に応じてくれるのであれば、双方が記入の上、離婚届を提出すれば離婚することができます。夫婦で会話なし、無視が続いている状況であれば、他方配偶者も離婚に応じてくれる可能性も十分にあるといえるでしょう。
これに対し、そのような状況であっても他方配偶者が離婚に応じない場合には、最終的には裁判所が離婚をすべきか否か、すなわち「婚姻関係が破綻している」といえるか否かを判断してもらう必要があります。
「家庭内別居」で関係性が冷え切っている状態でも、同居はしていることから「婚姻関係が破綻」していると直ちに判断されるわけでないことには注意が必要です。双方とも関係を修復する意思が全くない、夫婦で会話が無く、無視されることにより精神的苦痛や健康被害が生じている等の事情があれば、「婚姻関係が破綻」していると認められる可能性があるといえるでしょう。
家庭内別居中の婚姻費用は請求できますか?
「家庭内別居」中であっても、婚姻費用を相手方に請求できます。
ただし、裁判所が用いる算定表どおりの額にはならないことには注意すべきです。これは、裁判所が用いる算定表は別居した夫婦であることが想定されて作成されており、「家庭内別居」の場合では、夫婦が共同で負担している生活費があると考えられるため、算定表をそのまま当てはめることができないためです。そのため、「家庭内別居」では、どちらがどれだけ負担すべきかについては裁判所が算定表を修正して決定することになります。
なお、算定表については、以下の記事でも解説していますのでご参照ください。
婚姻費用算定表で婚姻費用の相場を知る方法
家庭内別居から離婚をお考えの方は、早めに弁護士にご相談ください。
本記事では、「家庭内別居」のメリット、デメリットについて解説させていただきました。将来離婚を考えているのであれば、「家庭内別居」を続けるべきかどうかについては、専門家である弁護士に相談した上で決めることをおすすめします。
これまで、弁護士法人ALG姫路法律事務所の弁護士は、多くの離婚事件を扱ってきており、豊富な実績があります。「家庭内別居」の状態にある方で今後別居や離婚を考えている方は、一度、弊所の弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)