
監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
寄与分とは、相続人の特別の寄与行為により、被相続人の相続財産を増加・維持されたと評価される場合に認められるものであり、家事従事型や財産管理型などの類型が存在しています。
ここでは、財産管理型の寄与分についてご説明いたします。
被相続人の財産を管理している相続人の方や、今後財産を管理する可能性のある方に参考にしていただきたく存じます。
目次
財産管理型の寄与分とは
財産管理型の寄与分とは、相続人が被相続人を管理している場合で、管理することにより、被相続人が管理費用等の支出を免れるなどし、結果的に被相続人の財産の増加・維持に貢献した場合に認められる寄与分のことをいいます。
財産管理型の寄与分といっても、想像しにくいと思いますので、以下で具体例をご紹介いたします。
具体例
例えば、被相続人が所有している賃貸マンションなどを相続人が管理していた場合が挙げられます。
不動産会社が賃貸マンションを管理していた場合は、管理費等が発生しますが、相続人が管理すれば管理費等に支出を抑えることができます。
その結果、被相続人の財産の流出を防ぐことができ、被相続人の財産の増加・維持に貢献したと認められることになります。
寄与分と特別寄与料の違い
寄与分に似た概念として、特別寄与料というものがあります。
寄与分が法定相続人のみに認められるものであるのに対し、特別寄与料は、法定相続人以外の親族でも認められるものになります。
令和元年7月以降の相続から適用されることになった制度です。
特別寄与料は、全くの他人にまで認められている制度ではない上、認められる対象としては、療養監護、その他の労務の提供に限られていることに注意が必要です。
財産管理型の寄与分の計算式
あくまで一例にすぎませんが、財産管理型の寄与分の計算式についてご紹介します。ご参考にしてください。
①不動産の賃貸管理をするなど、財産管理行為そのものが寄与行為である場合
管理行為を第三者に委託した場合の報酬額を基準額とする方法、若しくは、財産管理に要した金銭の出資が寄与行為とする場合には、負担した金額を基準額として、それに裁量割合を乗じて計算する方法があります。
②相続人自身が財産管理をしていたのではなく、相続人が財産管理をするために金銭を負担した場合
この場合、被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度の負担を控除した上で、余っているものがあればそれが寄与分として計算されることになります。
寄与分を認めてもらう要件
財産管理型の寄与分が認められるには、以下の要件を充足する必要があります。
- ①相続人であること
- ②財産管理の必要性
- ③特別の貢献
- ④無償性
- ⑤継続性
- ⑥寄与行為の結果として、被相続人の財産を維持又は増加させていること
これらの要件は、簡単に充足されるものではないので、要件を充足しているか悩まれている方は、一度弁護士に相談することをお勧めします。
成年後見人として財産を管理していた場合
被相続人の判断能力が低下したため、相続人のうちの一人が成年後見人として、被相続人の財産を管理していた場合、財産管理型の寄与分が認められるかが問題となります。
結論から述べると、財産管理型の寄与分が認められる可能性がないとは言い切れませんが、実際に認められるケースは少ないといえます。
なぜなら、成年後見人の責務として、成年被後見人の財産を管理しなければなりませんし、成年後見人として報酬を受け取っている場合には、無償性という要件を充足しないからです。
もちろん、個別具体的な事例によって認められるケースもあると思いますので、弁護士に一度ご相談下さい。
財産管理型の寄与分はどう主張すれば良い?
財産管理型の寄与分を請求したい場合、どのように主張すればいいでしょうか。
以下では、財産管理型の寄与分を主張するための重要なポイント、有効となる証拠についてご説明いたします。
主張するための重要なポイント
財産管理型の寄与分を主張するための重要なポイントとしては、上述した要件に該当する事実を主張することになります。
どのような経緯で被相続人の財産を管理するようになったのか(②財産管理の必要性)、いつから、どのような管理をしていたのか(③特別の貢献、⑤継続性)、当該管理が無償であったのか(④無償性)、管理の結果、被相続人の財産が維持された、または、増加したか(⑥寄与行為の結果として、被相続人の財産を維持又は増加させていること)について丁寧に主張するようにしましょう。
有効となる証拠
寄与分を主張する際には、上記の要件を裏付ける客観的な証拠が有効となります。
客観的な証拠とは、改ざんされる可能性が低いものをいいます。
第三者が作成する資料などは客観性が高い証拠となり、例えば、賃貸借契約書、修繕費の出費に関する領収書などです。
日記などは客観性が高い証拠とはいえませんが、あるのとないのとでは決定的に違うので、日記なども作成するとよいでしょう。
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財産管理型の寄与分に関する裁判例
以下では、財産管理型の寄与分が争われた事案で、財産管理型の寄与分の主張が認められた裁判例と、認められなかった裁判例をご紹介します。
財産管理型の寄与分が認められた裁判例
相続人が、相続人の費用で、被相続人所有の建物を、解体更地とするため借家人の立退き交渉や建物の解体・滅失登記手続をなし、また、被相続人の売却依頼に基づき、当該土地の買手を探し第三者との間で売買契約を締結しました。
さらに、隣接地権者との交渉を重ね、土地面積を増加させた上で、売却することができました。
これらの行為について、財産管理型の寄与分を主張した事件について、裁判所(長崎家庭裁判所諫早出張所昭和62年9月1日)は、「土地売却にあたっての寄与の主張については、土地の実測面積が公簿面積より広かつたことは、土地自体の有していた経済的価値が顕現したものにすぎず、このこと自体を相手方原田の寄与とみることはできない。
しかし、土地売却にあたり借家人の立退交渉、家屋の取壊し、滅失登記手続、売買契約の締結等に努力したとの事実は認められるので、売却価格の増加に対する寄与はあったものとみることができる。」として、不動産仲介人の手数料基準をも考慮し、300万円の寄与分を認めました。
財産管理型の寄与分が認められなかった裁判例
相続人が、被相続人が所有している賃貸マンションを管理し、①賃借人を立ち退かせ、②損傷部分を補強修復したとして寄与分を主張した事件について、裁判所(大阪家庭裁判所平成27年12月9日判決)は、「相手方が、相手方と被相続人との間の情誼として通常期待される程度を超えた行為を行ったとは認められないので、『特別の寄与』の要件を満たさないというべきであり、さらに、②については、『被相続人の財産の維持または増加』の要件を満たしているとは認めらない」と判断し、財産管理型の寄与分の主張を排斥しました。
財産管理型の寄与分に関するQ&A
父の資産を株取引で倍増させました。寄与分は認められますか?
株取引は、不確定要素が多く、増加することもあれば、減少するリスクも存在しております。
そのようなことから、特別な寄与行為によって被相続人の財産を維持又は増加させたとは言いにくいところもありますので、偶然に株が倍増したことをもって、寄与分と認められない可能性があります。
母が介護施設に入っていた間、実家の掃除を定期的に行い、家をきれいに保ちました。寄与分は認められますか?
実家の掃除をすることによって、自宅という被相続人の財産を維持したと認められるかが問題となります。
しかし、被相続人と親子関係にある相続人は、扶養義務を負っているため、実家の掃除をすることは通常考えられることであり、「被相続人と相続人の身分関係から通常期待されるような程度を超える貢献」、すなわち、「特別な寄与」とは評価されない可能性があります。
したがって、単に、実家を清掃したというだけでは、寄与分は認められない可能性があります。
父の所有するマンションの一室に住みながら、管理人としてマンションの修繕等を行った場合、寄与分は認められますか?
被相続人所有のマンションを管理することは、親子という関係から通常期待される程度の貢献を超えると評価される可能性がありますので、寄与分が認められる可能性があります。
もっとも、マンションを無償で居住していたような場合であれば、マンションの賃料相当額が寄与分から控除される可能性があることに注意が必要です。
財産管理型の寄与分請求は弁護士にご相談ください。
これまで述べたとおり、財産管理型の寄与分請求は、要件が厳しいため、容易に認めらえるものではありません。
これまで被相続人の財産を管理していて、寄与分の主張をしようとしている方はもちろん、今後被相続人の財産を管理する可能性がある方についても、注意しなければならない点が多く存在していますので、一度弁護士に相談することをお勧めします。
弊所の弁護士であれば、相続事件を多く扱っているので、ご相談者様のお力になれるのではないかと考えます。
お気軽にお問い合わせください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)