父親が親権をとるためのポイント

離婚問題

父親が親権をとるためのポイント

姫路法律事務所 副所長 弁護士 松下 将

監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士

離婚する場合、父親母親のどちらかを子の親権者として決める必要があります。そして、親権の決め方は、基本的に①協議離婚→②調停離婚→③裁判離婚の手続によって決めることになります。

一般的に、父親が親権に指定される可能性は低く、家事令和2年度の司法統計によると成立した離婚調停及び審判事件の18,035件中、親権者を父親に指定した事件は1,635件と1割に届いていません。

しかし、父親として、「自分が子の親権者になった方が子どもが幸せになる」、「親権は諦められない」と思われている方もいるのではないでしょうか。

そこで、今回記事では、父親が親権を取りにくい理由、父親が親権を獲得するためのポイントや、親権を獲得する流れ、父親が親権争いで有利になるケースなど、父親が親権獲得するために役に立つ情報を解説します。

父親が親権を取りにくい理由

親権者は、父親母親のいずれを親権者にすれば、子が健全に成長できるか、子にとってふさわしいかという視点で決められることになります。これを「親権者の適格性」といいます。

この「親権者の適格性」は、監護実績・従前の監護状況、居住環境、健康状態、監護に対する意欲・能力・子に対する愛情の程度、祖父母などの監護補助者の支援の状況、子の意思、子どもの年齢、性別、心身の発育状況、兄弟姉妹の関係などが具体的に考慮されることになります。

そのため、父親が親権を取りにくい理由として以下の事情が存在します。

フルタイムで働いているため子供の世話が難しい

「親権者の適格性」を判断する重要な要素としては、従前の監護実績・状況が挙げられます。

昔は、父親が働き、母親は専業主婦ということが多かったですが、最近では、母親の社会進出に相まって専業主婦・主夫家庭が減少し、共働きが年々増えています。

そのことから、現在、乳幼児の監護養育は、子育てに対する父母の役割分担意識に変化があり、その考え方が多様化していることも事実ですが、それでもなお、監護養育の実情を見れば、父がフルタイムで働いており、母が主に子を監護していることが多い状況です。

また、特に乳幼児との心理的、身体的結びつきについては、母の方が強いように考えられています。

そのため、母の監護養育に大きな問題点がなければ、母が親権者として指定されることが多いというのが実情であり、父親が親権を取りにくい理由の一つとなっています。

子供への負担を考えると母親優先になりがち

乳幼児については、特段の事情がない限り、母の監護養育に委ねることが子の福祉に合致するという考え方(「母性優先の基準」)があります。

乳幼児には、母の存在が情緒的成熟のために不可欠であって、スキンシップを含めて母の愛情が必要であるということがその根拠にあります。

しかし、上記1-1に記載のとおり、現在の社会においては、監護養育の在り方が多様化しており、父親が母親の補助的存在ではなく、母親と同様の役割を担っていることも少なくありません。

父親が親権を獲得するためのポイント

父親が親権を取りにくい理由を理解していただければ、おのずと父親が親権者を獲得するためのポイントも理解できると思います。

以下で父親が親権を獲得するためのポイントを説明します。

これまでの育児に対する姿勢

単に生物学上母親という事情だけで母親が親権者として有利なわけではなく、どちらが子の監護養育を主に行っていたのかが重視されています。

逆に言えば、母親が仕事や趣味で子らの監護養育をあまりしておらず、父親が仕事をしているが出勤前、退社後に子らの監護養育をしている状況等(母性的な役割を果たしている状況)があれば、父親が親権を取得できる可能性もあります。

そのため、子の送迎、食事の準備、入浴、寝かしつけ、子の健康管理等を父親が主に行ってきたことを裁判所に資料をもって伝えることができれば、父親でも親権を獲得できる可能性があります

離婚後、子育てに十分な時間が取れること

子どものために早朝から深夜まで勤務して生活費を稼いだとしても、直接子どもと触れ合える時間がなければ、親権者として適格であるとは判断してもらえません。母親より経済力があったとしても、養育費の支払いを受けることができるため、あまり経済力は重視されていないのです。

そこで、離婚後、子育てに十分な時間が取れること、例えば、残業や休日出勤を控えて子どもの監護養育できる時間を確保する、不在時は祖父母に子の面倒をみてもらえる体制を整える等、父親側で子育てに十分な時間が取れるかどうかという点も非常に重要なポイントになります。

子供の生活環境を維持できるか

子の生活環境が変化すると、子の社会的つながり(幼稚園・学校との関係、近所の友人、部活、習い事等)が断絶又は疎遠とならざるを得ない場合があり、その場合、新しい生活環境にうまく適用できるか否かについて不安が生じますし、子に精神的負担を与えることになります。

そのため、子の生活環境を維持できるかという点も非常に重要なポイントになります。

父親が親権争いで有利になるケース

父親が親権の争いで有利になるケースを紹介します。

母親が育児放棄をしている

母親が育児放棄をしている場合には、母親が子の適切な監護ができておらず、父親が子の監護を行っているケースが多いため、父親が親権の争いで有利になるケースと言えます。

しかし、裁判所では、そもそも育児放棄と評価できるかが争点になることが多いため、母親が育児放棄している証拠(子どもの体調が悪くても病院に通院させていない、食事を与えていない等の状況が発覚した際には、写真やその育児放棄について話し合ったメールや会話録音記録等)をとっておいくことが重要になります。

母親が子供を虐待している

母親が子を虐待している場合も、父親が親権の争いで有利になるケースと言えます。

そもそも母親が子を虐待している場合には、警察や児童相談所へ相談すべきケースもあると思います。

この行政機関への相談記録については、母親が子を虐待していたことを立証する資料となることもりますので、相談しておくことが望ましいです。

しかし、育児放棄と同様、裁判所では、そもそも子供を虐待していたと評価できるかが争点となることが多いため、上記行政機関への相談記録や虐待しているところを撮影した写真や動画等資料を収集しておく必要があります。

子供が父親と暮らすことを望んでいる

子の親権者を定めるのは、子の利益及び福祉のためですので、子が自らの意思を表明できる場合には、その意思を尊重することは当然のことになります。

そのため、子供が父親と暮らすことを望んでいるケースは、父親が親権の争いで有利になるケースと言えます。

なお、裁判所は、子の親権者の指定するに当たり、子の年齢が15歳以上の場合には、その子の陳述を聴取しなければならない決まりになっています。

また、子の年齢が15歳未満でも、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を尊重して判断するように求められています。

ただし、特に子の年齢が15歳未満の場合、子が他方の親に気を遣ってしまうケースも少なくないため、子の真意は、発言だけでなく、態度や行動等を総合的に観察して検討されています。

妻の不貞は父親の親権獲得に有利にはならない

妻が不貞をしたこと自体が父親の親権者獲得に有利にはなりません。つまり、妻が不貞したからといって、子の監護養育能力が否定されるわけではありません。

あくまで不貞の問題は、慰謝料で解決すべき問題であり、親権者は、あくまで子の利益及び福祉の観点から判断されることになります。

もっとも、不貞相手と過ごすために、長時間家を空けており、子の監護をしていない等の事情があれば、父親の親権獲得に有利にな事情になります。

つまり、不貞自体は、基本的に慰謝料で解決すべき問題であり、親権者の適格性の判断に影響しませんが、不貞が子の監護に悪影響を及ぼしている場合には、その悪影響が親権者の適格性のマイナス事情になります。

父親が親権を獲得した場合、母親に養育費を請求することは可能か?

離婚をしても親は子に対する扶養義務を負います。

そのため、母親が親権を獲得した場合には、父親が母親に対して子の養育費を支払う義務を負いますし、逆に父親が親権を獲得した場合においても、当然、母親に養育費を請求することは可能です。

ただし、養育費は、双方の収入や子の年齢等の事情によって変動があります。

裁判所のホームページに養育費の算定表が公開されていますので、養育費の金額の目安を知りたい場合には、参考にしてみるのも一つの手段です。

親権を得られなくても子供には会える

仮に父親が親権を得ることができなくても、子供に会うことはできます(「面会交流」といいます。)。

離婚をしても、子にとって世界で唯一の父親と母親という事実は変わりませんし、子の利益及び福祉にとって双方の親との交流を持つことは非常に重要と考えられています。

なお、子供は、両親双方と交流することにより人格的成長を遂げると考えられています。

そのため、親をどれほど信頼して子どもとの面会交流を認めることができるかという「面会交流の許容性」については、親権者を判断するうえで重要な要素として考えられています。

子供の親権を父親が勝ち取れた事例

弁護士法ALGの姫路法律事務所にも、父親から親権は譲れないとの離婚相談は数多くあり、子供の親権を父親が勝ち取れた事例がありますので紹介いたします。

ケースとしては、まだ子供が3歳、5歳、8歳と幼いケースでしたので、一般的には、母親が極めて有利なケースでした。ただし、母親の子供の監護が極めて不適切な事情(育児放棄に近い状態)が多々あり、他方で父親及びその家族が子らを監護してきた実績があったため、それらを証明する証拠を多数提出することで、最終的に父親側で親権を獲得することができました。

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父親の親権に関するQ&A

乳児の親権を父親が取るのは難しいでしょうか?

子供が乳児の場合には、一般的には父親が親権を取るのは極めて困難となります。

母の存在が情緒的成熟のために不可欠であり、スキンシップを含めて母の愛情が必要であると考えられているからです。

もっとも、母親が育児放棄や虐待をしているなど、他の親権者として不適格だと判断される事情があれば、父親が親権を獲得できる可能性もあります。

未婚の父親が親権を取ることは可能ですか?

未婚で生まれた子は非嫡出子といいます。

非嫡出子については、母親が親権者となり、父親が非嫡出子を認知しても、父親に親権が発生することはなく、母親の単独親権の状態が続きます。

母親との協議で父親を親権者とすることはできますが、協議がまとまらなかった場合には、家庭裁判所に親権者指定あるいは変更の調停・審判を申し立てなければなりません。

ただし、認知前に母親が子を監護養育していたのであれば、母親が育児放棄や虐待をしているなど親権者として不適格な事情がなければ、父親が親権を獲得するのは困難でしょう。

元妻が育児をネグレクトをしています。父親が親権を取り返すことはできますか?

親権者を変更するためには、当事者間の協議では足りず、裁判所で親権者変更の調停や審判を申し立てる必要があります。

親権者の変更のハードルは一般的に高いですが、母親が育児放棄、虐待をしている事実を裏付ける証拠を提出することができれば、親権を取り返すことも可能です。

妻は収入が少なく、子供が苦労するのが目に見えています。経済面は父親の親権獲得に有利になりますか?

経済力も親権者の考慮要素の1つにはなりますが、養育費や母子手当等の公的な援助で一定程度解決できる問題であり、従前主に子を監護養育していたのが父親か母親かどちらかが重視され、経済力はそれ程重視されない傾向にあります。

父親の親権争いは一人で悩まず弁護士に相談しましょう

家事令和2年度の司法統計によると父親を親権者に指定した事件は1割に満たない状況にあり、父親が親権者を獲得することは、一般的には困難と言わざるを得ません。

しかし、父親として「自分が子の親権者になった方が子どもが幸せになる」、「親権は譲れない」という強い思いがある方もいると思います。

また、そのようなケースでは、父親が子の監護養育をかなり頑張っているケースや母親の監護状況に問題があるケースが多いように思われます。

父親が親権を獲得するハードルが高いのは事実ですが、父親が親権者を獲得するためのポイントを押さて裁判所に説明することで、親権を獲得できる可能性もありますし、親権を獲得できなかった場合にもお子様との面会交流を協議する必要があります。

父親の親権争いは、特に一人で解決することは困難であると思いますので、一人で悩まず離婚問題に詳しい弁護士に相談をしてください

弁護士法人ALG姫路律事務所は、離婚問題、親権者問題に精通した弁護士が在籍しておりますので、ぜひご相談いただければと思います。

姫路法律事務所 副所長 弁護士 松下 将
監修:弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。