労務

労働審判の第1回目期日の重要性と方針、戦略について

姫路法律事務所 副所長 弁護士 松下 将

監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士

  • 労働審判

ある日突然、裁判所から「期日呼出状及び答弁書催告状」と題する書面が会社に届く――。
労働審判は、こうした不意打ち的な書面の到着から始まることが少なくありません。

労働審判は、原則として3回以内の期日で審理を終結する迅速な紛争解決手続です(労働審判法15条2項)。しかし、実際には第1回期日でほぼ勝敗が決すると言われており、会社側にとって準備に充てられる期間は1か月足らずというのが実情です。

本稿では、(1)なぜ第1回期日がこれほどまでに重要なのか、(2)労働審判の手続の流れと第1回期日に何が行われるのか、(3)和解を狙う場合と徹底的に争う場合それぞれの方針・戦略、(4)出頭する関係者の人選、(5)答弁書と証拠の準備のポイントについて、企業側(使用者側)の視点から実務に即して解説します。

労働審判の第1回目期日の重要性

労働審判の最大の特徴は、「迅速性」です。通常の民事訴訟の場合、解決まで1年以上を要することも珍しくありませんが、労働審判の場合は数か月で決着する制度設計となっています。

そして、この迅速性を支えているのが、まさに「第1回期日」の重要性です。
第1回期日にすべてを賭ける――これが労働審判対応の鉄則と言えます。

労働審判は原則として3回以内の期日で審理される

労働審判法15条2項は、次のように定めています。
「労働審判手続においては、特別の事情がある場合を除き、三回以内の期日において、審理を終結しなければならない。」

最高裁判所が公表する統計によれば、平成18年から令和6年までに終結した労働審判事件の平均審理期間は82.6日であり、約65.5%の事件が申立てから3か月以内に終了しています。

約7割の事案は第2回期日までに、約3割は第1回期日のみで終結しているとのデータもあります。
つまり、「3回」という期日数はあくまでも上限であって、現実の運用上は第1回または第2回で実質的な決着がつく事案がほとんどなのです。

会社側にとって、「第2回・第3回でじっくり主張を補充すればよい」という通常訴訟の感覚は通用しません。最初から最後まで全力――というよりも、第1回期日に最大の力点を置く――という発想の転換が不可欠となります。

労働審判委員会の心証形成は第1回目期日でほぼ決まる

労働審判は、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名(労使それぞれの実務経験者から任命)の計3名で構成される「労働審判委員会」が審理を行います(労働審判法7条、9条)。

委員会は、第1回期日の前にあらかじめ提出された申立書・答弁書・証拠書類を事前に検討(事前評議)し、当日は当事者本人や関係者に直接質問して事情を聴取(審尋)したうえで、争点を整理し、その場で調停案(和解案)を提示することも少なくありません。

この一連のプロセスの中で、委員会の心証は第1回期日のうちに事実上ほぼ固まってしまいます。
第2回以降に新たな主張や証拠を追加投入しても、いったん形成された心証を覆すのは至難の業です。

実務家からは、「労働審判は第1回期日が肝」「答弁書の出来不出来で勝敗が決する」と指摘されています。会社側としては、第1回期日に向けて、書面・証拠・出頭者の人選・想定問答――これらすべてを万全に整えなければなりません。

労働審判の流れ

会社が労働審判の相手方となった場合、どのようなスケジュールで手続が進むのか、全体像を押さえておきましょう。流れを知ることで、必要な準備と決断のタイミングが見えてきます。

第1回目期日はいつ・どのように指定される?

労働審判は、労働者(または使用者)が地方裁判所に申立書を提出することにより開始されます(労働審判法5条1項)。裁判所は申立書の形式審査を経たのち、労働審判官を指定し、第1回期日を定めます。

ここで重要なのが、労働審判規則13条の規定です。
労働審判規則13条は、「労働審判官は、特別の事由がある場合を除き、労働審判手続の申立てがされた日から四十日以内の日に労働審判手続の第一回の期日を指定しなければならない。」と定めています。

この「40日以内」という極めてタイトな期限が、会社側の準備期間の短さに直結します。
さらに注意すべきは、期日指定の段階では、原則として裁判所と申立人(労働者)側の都合のみで日程が決まるということです。
会社側は、後日「期日呼出状及び答弁書催告状」を受け取って初めて第1回期日を知ることになります。

会社側の都合で期日変更を申し出ること自体は制度上可能です。
もっとも、実務上は労働審判員2名を含む3名の日程調整が必要なため変更が困難なことが多く、「他の予定がある」程度では認められないのが通常です。
やむを得ない事情があれば、できる限り早期に裁判所に連絡することが肝要です。

第1回目期日で行われることとは?

第1回期日は、午後の半日から夕方近くにまで及び、おおむね2〜3時間程度を要するのが一般的です。
事案によっては夜間に至ることもあります。当日の流れはおおむね以下のとおりです。

第一に、争点と証拠の整理が行われます。
労働審判官が、事前提出された申立書と答弁書を踏まえ、何が争いの中心であるかを口頭で確認していきます。

第二に、審尋(しんじん)が行われます。
これは訴訟における証人尋問のような厳格な手続ではなく、審判委員から当事者本人や関係者に直接質問が投げかけられ、口頭でこれに答えるという形式の事情聴取です。
代理人弁護士が代弁することはできず、聞かれた本人が直接答えなければなりません。ここでの応答が心証形成に大きな影響を与えます。

第三に、調停(話合いによる解決)が試みられます。
労働審判規則22条1項は、「労働審判委員会は、審理の終結に至るまで、労働審判手続の期日において調停を行うことができる。」と定めています。

実務上は、委員会が双方を交互に別室に呼んで意向を聴取し(個別面談方式)、和解の落としどころを探っていくのが一般的です。第1回期日終了の時点で、争点整理と心証形成が完了し、調停案の方向性まで示されることも珍しくありません。

第1回目期日に向けてどのような方針・戦略を立てるべきか?

会社が労働審判を申し立てられた場合、最初に決めるべきは「和解(調停)で早期解決を目指すのか、それとも徹底的に争うのか」という大方針です。
この方針次第で、答弁書の論調も、出頭者の人選も、事前準備の力点も大きく変わってきます。

和解の可能性がある場合

労働審判は、最終的に調停成立で終結するケースが過半数を占めるとされており、会社側にとっても和解は有力な選択肢です。

具体的なメリットとしては、(1)早期に紛争を終結させ、経営資源を本業に集中できる、(2)和解条項に口外禁止条項を盛り込むことで他の従業員への波及や風評被害を抑えられる、(3)異議申立てによる訴訟移行(労働審判法21条1項、22条)のリスクを回避できる――などが挙げられます。

和解を視野に入れる場合、第1回期日の前に「いくらまでなら支払えるか」「金銭以外でどのような条件であれば受け入れられるか(退職か復職か、退職金の取扱い、口外禁止、清算条項など)」を社内で具体的に詰めておく必要があります。

実務上、労働審判で示される解決金の水準は、訴訟になった場合の認容額より低めに収まる傾向があるため、訴訟リスクとの比較考量で現実的な譲歩ラインを設定することが肝要です。
そして、第1回期日で調停成立の見込みが生じた場合に「会社に持ち帰って検討します」では遅きに失します。

代理人弁護士に決裁権限を包括的に委ねるか、決裁権限を持つ役員等に出頭してもらい、その場で諾否を判断できる体制を整えておくべきです。

労働者側と徹底的に争う場合

会社側に明確な落ち度がない、あるいは労働者の請求が法律上明らかに失当である場合には、徹底的に争う方針も合理的です。
この場合、第1回期日における主張立証のクオリティが審判結果を直接的に左右します。

会社側が主張すべき反論とは?

答弁書では、労働審判規則16条1項に従い、(1)申立ての趣旨に対する答弁、(2)申立書記載の事実に対する認否、(3)答弁を理由づける具体的事実、(4)予想される争点とこれに関する重要な事実、(5)予想される争点ごとの証拠、(6)当事者間でなされた交渉その他の申立てに至る経緯――を漏れなく記載しなければなりません。

特に「認否」の作業は重要です。
事実関係の争点を明確にすることで、審判委員会は「何を判断すべきか」を把握しやすくなります。

逆に「全部否認」のような乱暴な答弁書は、争点を絞れず審理に貢献しないだけでなく、委員会から「何を争っているのか分からない」「真摯に対応していない」とのマイナス印象を持たれ、信頼性を損ねる結果となりかねません。冷静かつ精緻な認否を心掛けるべきです。

事案類型ごとの典型的な反論ポイントは、次のとおりです。

▼解雇事案

解雇権濫用法理(労働契約法16条)の枠組みのもと、解雇に客観的合理性と社会通念上の相当性があったことを、具体的事実と証拠(就業規則、人事評価記録、注意指導記録、業務指示メール等)で立証する必要があります。
能力不足解雇であれば、繰り返しの注意指導と改善機会の付与の事実、配置転換等の解雇回避努力が重要です。整理解雇の事案では、いわゆる「整理解雇の4要件(4要素)」――人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続の相当性――を意識した主張立証が不可欠となります。

▼未払残業代事案

労働者が主張する労働時間の実態に争いがあるか(タイムカード、PC・入退館記録、業務日報等の客観的記録との整合性)、固定残業代制度の有効性(明確区分性・対価性)、管理監督者該当性の有無――などが主たる争点となります。
固定残業代の有効性については、最高裁判所第一小法廷平成30年7月19日判決(日本ケミカル事件・労働判例1186号5頁)が示した判断枠組み(諸事情を総合考慮し、当該手当が時間外労働等の対価として支払われているか)に沿った主張立証が求められます。

▼ハラスメント事案

反論のフレームワークとしては、(1)行為自体の存否、(2)行為の違法性(業務上の指導・注意との区別)、(3)使用者責任(民法715条)の成否、(4)安全配慮義務(労働契約法5条)違反の成否――の各レベルで反論を組み立てます。
会社が事前にハラスメントを認識しておらず、認識後は速やかに事実調査・配置転換・懲戒等の是正措置を講じていた事情があれば、使用者責任や安全配慮義務違反を否定する有力な根拠となります。

出頭する関係者の人選も重要となる

労働審判では、第1回期日に当事者本人ないし事情を知る関係者が出頭することが原則とされており、訴訟のような証人尋問はほとんど行われません。

代理人弁護士だけでは、その場で投げかけられる委員会からの質問に十分対応できないため、誰を出頭させるかの判断は極めて重要です。

人選のポイントは、大きく次の二点です。

第一に、「紛争の事実関係を最もよく知る人物」を出頭させること。
直属の上司、同僚、人事担当者、ハラスメント事案であれば加害者とされる本人など、争点となる事実を直接体験・観察した者でなければ、審判委員会の質問に説得的に答えることはできません。よく知らない代表者だけが出頭しても、「現場のことが分かりません」では答弁の信用性を損ねるばかりです。

第二に、「和解の決裁権限を持つ人物」を出頭させること。
中小企業であれば代表取締役、規模の大きい会社では人事担当役員などがこれに該当します。
第1回期日でその場で調停案が示されることもあるため、即時に諾否を判断できる体制を整えておく必要があります。

なお、当事者本人が正当な理由なく出頭しなかった場合、労働審判法31条1項により5万円以下の過料の制裁を受ける可能性があるため、軽視は禁物です。
委員会の心証としても、出頭しないことは紛争解決への消極姿勢と受け止められかねません。

第1回目期日までの準備期間は非常に短い!

労働審判の準備期間は、想像以上にタイトです。
「来月までに何とかすればよい」という感覚では到底間に合いません。

提出期限までに答弁書を作成する

会社は、労働審判規則14条1項に基づき、労働審判官が定める期限までに答弁書を提出しなければなりません。実務上、答弁書の提出期限は第1回期日の1週間ないし10日前に設定されるのが一般的です。

裁判所から申立書を受け取ってから提出期限までは、おおむね2〜3週間程度しかありません。
この限られた時間内に、(1)弁護士の選任、(2)事実関係の調査と関係者ヒアリング、(3)証拠の収集・選別、(4)答弁書の起案、(5)社内での内容確認――というプロセスをすべて済ませなければならないのです。

答弁書の提出が遅れたり、内容が形式的なものにとどまったりした場合、審判委員会は会社側の言い分を十分に把握できないまま第1回期日に臨むことになり、ほぼ自動的に労働者側の主張に沿って審理が進むという致命的な事態を招きかねません。

また、後出しに対する制限も明確化されています。
労働審判規則27条は、「当事者は、やむを得ない事由がある場合を除き、第二回の期日が終了するまでに、主張及び証拠書類の提出を終えなければならない。」と定めています。

つまり、第1回期日に間に合わなかった主張・証拠は、第2回までに提出しないと原則として却下される可能性があり、第3回での新規主張は基本的に許されないのです。

主張を裏付ける証拠を集めておく

労働審判規則16条2項は、答弁書には証拠書類の写しを添付しなければならないと定めています。
第1回期日における心証形成は、主張の説得力だけでなく、それを裏付ける客観的証拠の有無と質に大きく左右されます。「言った者勝ち」の世界ではありません。

事案類型別に、典型的に必要となる証拠は以下のとおりです。

解雇・退職をめぐる事案では、雇用契約書、就業規則・賃金規程、人事評価表、注意指導書、始末書、メール・チャット履歴、業務日報、勤怠記録など。

未払残業代事案では、タイムカード、勤怠管理システムのログ、入退館・入退室記録、PCのログオン・ログオフ履歴、業務日報、シフト表、就業規則・賃金規程、雇用契約書、給与明細など。

ハラスメント事案では、相談記録、社内調査報告書、関係者の陳述書、メール・LINE・チャット等のやりとり、防犯カメラ映像、就業規則のハラスメント関連規定、ハラスメント防止研修の実施記録など。

これらの証拠は、紛争発生時点ではすでに散逸していたり、関係者の記憶が薄れていたりすることが少なくありません。紛争の兆候があった段階から、社内で証拠を確保・保全しておく――これが日頃の労務管理として極めて重要な意味を持ちます。

労働審判の準備期間は短いです。なるべく早い段階で弁護士にご相談下さい。

以上のとおり、労働審判は迅速性ゆえに、準備期間が極めて限られています。
第1回期日で実質的な勝敗が決し、答弁書と証拠の出来不出来がそのまま結果に直結する手続です。

会社側にとって、労働審判は、通常の民事訴訟とはまったく別物の手続であると認識すべきです。
書面の作り込み方、主張の組み立て方、出頭者の選定、調停の進め方、いずれも訴訟とは異なる発想と段取りが求められます。

経営者・人事担当者の方が独力で対応できる手続ではなく、また、労働審判の経験が豊富な弁護士でなければ、十分な対応は困難です。

裁判所から「期日呼出状及び答弁書催告状」が届いたら、できる限り早く――できれば即日――労働問題に精通した弁護士にご相談ください。1日の遅れが、答弁書の完成度や証拠収集の徹底度に直結し、結果として支払うべき解決金の水準にまで影響します。

また、裁判所からの書面が届く前であっても、労働者側から内容証明郵便等で請求が来た時点で、労働審判申立てを見越した早期の準備を始めることが望ましいでしょう。

当事務所では、企業側(使用者側)の労働審判対応を多数手掛けており、緊急の対応にもお応えしております。労働審判を申し立てられた、あるいは申立ての可能性がある場合は、お早めにご連絡ください。

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姫路法律事務所 副所長 弁護士 松下 将
監修:弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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