監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
- 労働審判
労働者から労働審判を申し立てられた場合、会社側としてどのような対応をするべきかお悩みの方もいらっしゃると思います。
今回は、労働者から労働審判の申立てがされた場合の会社側の対応のポイントをご説明いたします。
目次
労働審判のポイント
労働審判制度は、個別労働紛争を迅速かつ実効的に解決するための手続です。通常の訴訟と異なり、原則3回以内の期日で結論が出されるため、限られた時間内で的確な対応が求められます。
会社側にとって最も重要なのは、第1回期日までの準備です。
労働審判委員会は、申立書と答弁書、提出された証拠をもとに早期に心証を形成する傾向があります。そのため、初動が遅れると、会社側の主張を十分に伝えられないまま不利な方向で手続が進むリスクがあります。
労働審判の大まかな流れ
労働審判は、概ね以下の流れで進行します。
まず、労働者から裁判所に対して労働審判の申立てがなされます。申立てを受けた裁判所は、第1回期日を指定し、会社に対して申立書の写しと呼出状を送付します。
会社はこれに対し、期日前に答弁書と証拠を提出して反論を行います。
期日は原則3回以内で終結し、まずは当事者間での話し合いによる調停成立が試みられます。
調停が成立しない場合には、労働審判委員会が審判を下します。審判に対して2週間以内に異議が申し立てられなければ確定し、異議があれば通常訴訟に移行します。
労働審判を申し立てられた会社はどう対応すべきか?
労働審判は3回以内の期日で終結する制度ですが、実務上は第1回期日で手続の大勢が決まることも少なくありません。裁判所は、申立書・答弁書・証拠に基づいて一定の心証を形成したうえで、第1回期日の審理に臨みます。
したがって、会社としては、第1回期日までにいかに説得力のある主張と証拠を準備できるかが重要になってきます。期日当日の対応も重要ですが、それ以上に事前準備の質が結果に直結するという意識を持って臨む必要があります。
申立て~期日前のポイント
第1回期日は、原則として申立日から40日以内に指定されます(労働審判規則13条)。
しかし、裁判所での事務処理や郵送に時間を要するため、実際に会社に呼出状が届く頃には、期日まで3週間程度しか残っていないことも珍しくありません。
この限られた期間内で、申立書の内容を精査し、事実関係を整理し、関連資料を収集し、関係者からのヒアリングを行い、法的な反論を構築して答弁書にまとめる必要があります。準備不足のまま期日を迎えれば、労働者側の主張のみが採用されるリスクが高まりますので、早急に対応を開始することが肝要です。
答弁書は期限間近に提出すると不利になる?
形式的には、答弁書を提出期限内に提出すれば問題ありません。
しかし、実務上は期限ぎりぎりの提出にはリスクが伴います。
労働審判委員会は、期日前に提出された書面をもとに審理の方針を検討します。
答弁書の提出が遅れると、裁判所が事前に内容を十分検討できず、第1回期日での心証形成に影響を与える可能性があります。また、提出が遅いこと自体が「準備不足」「消極的な対応」と受け取られ、印象面でも不利に働くことがないとは言い切れません。
できる限り早めに答弁書を完成させ、余裕をもって提出することをお勧めします。
労働審判期日のポイント
労働審判期日では、書面審理だけでなく、口頭でのやり取りが重要な役割を果たします。労働審判委員会は、当事者双方に対して直接質問を行い、その回答内容も踏まえて心証を形成します。
そのため、期日当日の対応を軽視することはできません。事前に想定される質問を検討し、適切に回答できるよう準備しておくことが求められます。
また、労働審判委員会の進行に協力的な姿勢を示すことも、手続を有利に進めるうえで大切です。
事実関係を説明できる者を同行させる
労働審判期日では、労働審判委員会から事実関係について詳細な質問がなされます。代理人弁護士だけでは即答できない事項も多いため、紛争の経緯をよく知る会社関係者を同行させることが不可欠です。
たとえば、労働者の直属の上司、人事担当者、問題となった出来事に関与した責任者などが適任です。
これらの者が期日に出席し、労働審判委員会からの質問に直接回答できる態勢を整えることで、会社側の主張の信用性を高めることができます。
審判員からの質問には端的に回答する
労働審判委員会からの質問に対しては、簡潔かつ的確に回答することが重要です。
質問の趣旨から外れた長い説明や、聞かれていないことまで補足的に述べると、かえって墓穴を掘る発言をしてしまうリスクがありますので、注意が必要です。
また、過度に弁解的な姿勢や感情的な態度は、労働審判委員会に悪印象を与えかねません。質問された内容にのみ答え、必要があれば代理人弁護士がフォローするという体制で臨むのが望ましいでしょう。
調停成立時のポイント
労働審判手続では、審判が下される前に調停(話し合いによる解決)が試みられます。労働審判委員会は、当事者双方を交互に呼び出して心証を示しながら、和解に向けた調整を行います。
調停はあくまで当事者の合意に基づくものですから、会社としては譲歩すべき点と譲れない点を明確にしておく必要があります。訴訟に移行した場合のコストやリスクも考慮しながら、現実的な解決を目指すことが重要です。
和解の落としどころを見極める
調停交渉においては、労働審判委員会から示される心証が重要な判断材料となります。
裁判所が審判を下すとすればどのような内容になるか、現時点での見通しを踏まえて、和解条件を検討する必要があります。
会社としては、審判を求めた場合の結果予測、訴訟に移行した場合の時間的・経済的負担、他の従業員への波及効果などを総合的に考慮し、どこまで譲歩するかの方針を決定します。
感情的にならず、冷静にメリット・デメリットを比較検討することが大切です。
調停条項には「守秘義務条項」を入れておく
調停で紛争を解決する場合には、紛争の原因が会社にあるかどうかにかかわらず、調停条項に守秘義務(口外禁止)条項を盛り込むことを強くお勧めします。
紛争の存在や解決金の金額がSNS等で拡散されると、会社の評判に影響を与えるだけでなく、他の従業員が同様の請求を行う動機となりかねません。守秘義務条項を入れておくことで、紛争に関する情報が外部に漏れるリスクを抑え、会社の評判と社内秩序を守ることができます。
審判確定時のポイント
調停が成立しない場合、労働審判委員会は審判を下します。審判の内容は期日終了時に口頭で告知され、後日書面が送達されます。
審判が確定すると、裁判上の和解と同一の効力(労働審判法21条4項)を持ち、会社は審判の内容を履行する義務を負います。審判の内容に不服がある場合は、異議申立てによって訴訟に移行させることができますが、その場合は通常訴訟として改めて争うことになります。
異議申立ては2週間以内に行う
審判書の送達を受けた日から2週間以内に異議を申し立てなければ、審判は確定します(労働審判法21条1項)。この期間は延長できませんので、不服がある場合には速やかに対応する必要があります。
異議を申し立てると、手続は自動的に通常訴訟へ移行します(労働審判法22条1項)。
異議を出すかどうかは、審判の内容、証拠状況、訴訟になった場合の勝訴見込み、時間的・経済的コストなどを総合的に考慮して判断すべきです。
労働審判でやってはいけない対応とは?
労働審判において、会社側が避けるべき対応がいくつかあります。これらは手続の結果に悪影響を及ぼすだけでなく、会社の信用を損ねることにもなりかねません。
以下に代表的なものを挙げますので、ご覧ください。
労働審判の呼出しを無視する
労働審判の呼出しを無視することは絶対に避けるべきです。正当な理由なく期日に欠席した場合、5万円以下の過料が科される可能性があります(労働審判法31条)。
また、会社が欠席すると、労働者側の主張のみに基づいて審理が進行し、会社に不利な審判が下されるリスクが高まります。申立ての内容に全く根拠がないと考えていても、手続には必ず対応してください。
法律や証拠に事実に基づかない主張を行う
労働審判は裁判所の手続であり、証拠と法律に基づいて判断がなされます。
証拠に裏付けられていない主張や、法的に成り立たない反論を行っても、労働審判委員会がそのような主張を採用する可能性は低いです。
むしろ、根拠のない主張を繰り返すことで、会社全体の主張の信用性が損なわれるおそれがあります。会社としては、客観的な証拠に基づき、法律論として成り立つ反論を組み立てることが重要です。
声を荒げたり、侮辱するような発言をする
労働審判期日での発言は、労働審判委員会の事実認定の基礎になったり、心証形成に影響を与えます。
感情的になって声を荒げたり、労働者を侮辱するような発言をすれば、普段の職場環境や会社の体質を疑われることになりかねません。
たとえ、労働者側が事実と異なる主張をしたとしても、それに対する反論は冷静かつ論理的に行うべきです。感情的な言動は、証拠に基づく適切な反論の妨げとなり、かえって会社側を不利にします。
労働審判委員会の進行に従わない
労働審判委員会は、当事者双方の主張を聞いたうえで争点を整理(労働審判法15条1項)し、事実を認定していきます。この進行を無視したり、指示に従わない態度をとると、会社に対し不利な心証を形成させてしまう可能性があります。
労働問題に対して誠実に対応する意思がないと判断されれば、心証面でも不利に働きます。労働審判委員会の進行には協力的な姿勢で臨み、求められた資料の提出や説明には誠実に対応することが大切です。
会社が労働審判で虚偽の陳述をした場合はどうなる?
虚偽の陳述を行うこと自体に直接の罰則が設けられているわけではありませんが、虚偽であることが発覚した場合の影響は甚大です。
まず、虚偽の陳述を行った事実が判明すれば、会社の主張全体の信用性が大きく損なわれ、正当な反論まで疑いの目で見られるようになります。
また、仮に訴訟に移行し、虚偽の陳述を訂正した場合であっても、労働審判での陳述内容との矛盾を指摘され、「後付けの言い訳」とみなされて不利な判断につながることもあります。
事実に基づいた誠実な対応が最善の策です。
労働審判に強い弁護士を選ぶポイント
労働審判は短期間で結論が出る手続であるため、対応する弁護士の選定は非常に重要です。
まず、労働法制に精通し、労働審判の実務経験が豊富な弁護士を選ぶことが基本です。
そのうえで、期日までの限られた時間内に充実した準備ができるよう、レスポンスが早く、調停交渉にも長けた弁護士であることが望ましいといえます。
また、会社側の立場から企業リスクを踏まえた現実的な助言ができるかどうかも、重要な選定基準となります。
労働審判の有利な解決を目指すには会社側の対応が重要です。労働審判の対応でお悩みなら弁護士にご相談下さい。
労働審判は、申立てから短期間で結論が出る手続であり、初動対応の速さと質が結果を大きく左右します。第1回期日までの準備期間は限られており、その間に事実関係の整理、証拠の収集、法的主張の構築を行わなければなりません。
会社内に労働審判の経験が豊富な担当者がいることは稀であり、専門的な知識と実務経験を持つ弁護士のサポートが不可欠です。弁護士に依頼することで、答弁書の作成から期日対応、調停交渉、審判後の対応まで一貫したサポートを受けることができます。
労働審判を申し立てられた場合には、できる限り早期に労働問題に精通した弁護士にご相談されることをお勧めいたします。弊所は、これまで多くの労働事件を扱ってきましたので、少しでもお力になれることがあると考えます。
まずは、お気軽にお問い合わせください。

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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
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