
監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
- 不正受給
- 手当
従業員に通勤手当を支給している会社は多いと思います。
その中で、従業員から申請され、支給した交通費が不正なものだと発覚したらどのような対応をするべきでしょうか。
ここでは、通勤手当の不正受給が発覚した場合の会社がとるべき対応と防止策についてご説明いたします。
目次
通勤手当の不正受給でよくある3つのパターン
通勤手当の不正受給でよくある3つのパターンを紹介します。
①会社に申請した経路よりも安い経路で通勤している
一つ目は、会社に申請した経路よりも安い経路で通勤している場合です。
会社に申請している経路よりも安い経路が通勤しているのであれば、会社に対し、申請している経路から安い経路に変更して、適正な通勤手当を受け取るべきです。
したがって、会社からに申請している経路で受け取っている通勤手当があるにもかかわらず、その経路ではなく、安い経路で通勤しているのであれば、不正受給に該当することになります。
②電車やバス通勤を申告しているのに自転車や徒歩で通勤している
二つ目は、会社に電車やバスで通勤していると申告しているにもかかわらず、自転車や徒歩で通勤している場合です。
自転車や徒歩で通勤しているのであれば、電車やバスで通勤していると申告できないことになります。
したがって、会社から電車やバスの通勤定期代を受け取っているのであれば、不正受給に該当することになります。
③申請した住所地と異なる場所から通勤している
三つ目は、会社に対し通勤手当を申請した住所地と異なる場所から通勤している場合です。
通勤手当は、現在通勤している住所地で申請するものであるため、申請した住所地と異なる場所から通勤しているのであれば、会社に対し、適正な通勤手当を請求し直さなければなりません。
したがって、申請した住所地と異なる場所から通勤しており、余分な通勤手当を受け取っているのであれば、不正受給に該当することになります。
通勤手当の不正受給につながる要因
通勤手当の不正受給という問題が発生するかについては、通勤手当の申請書などの確認が徹底できていないことが考えられます。
従業員がした通勤手当の申請が適正なものかどうかを確認しないまま、通勤手当を支払っていると、通勤手当の不正受給に繋がる可能性があります。
通勤手当の不正受給が発覚した場合の会社側の対応
従業員の通勤手当の不正受給が発覚した場合、会社としてはどのような対応をするべきでしょうか。
不正受給の証拠を集める
まず、従業員が不正受給しているという証拠を集めるようにしましょう。
証拠としては、
- 従業員が作成した通勤手当の申請書類等
- 従業員が通勤手当を申請する際に添付した領収書等
- 会社が従業員に対し支払った通勤手当の明細書(給与明細書など)
- 従業員の住民票
- 他の従業員の証言
などが考えられます。
本人に確認する前に証拠を集めるようにするべきです。
本人に確認する
上記の証拠がそろった場合には、本人に確認することになります。
本人にヒアリングする際には、どのような順序で確認するかどうかを十分に検討するようにしましょう。
本人が不正受給を認めた場合には、通勤手当の不正受給の立証は容易になりますが、無理に自白させるようなことがないようにしましょう。
また、後に行われる懲戒処分に備えて、本人に弁明の機会を与えることを忘れないようにしてください。
不正受給額の返還を求める
従業員が通勤手当の不正受給を認めた場合には、不正に受給した金額を返還していくことになります。
その前提として、不正に受給した金額がいくらかということを明確にしておく必要があります。
そして、従業員の返還金額が明確になり、返還金額が合意することができれば、返還する合意書を作成するようにしましょう。
当該合意書が存在していれば、従業員が返還をしなかった場合でも回収する確率が上がります。
懲戒処分を検討する
従業員が不正受給をしたという点について、会社としては、当該従業員にどのような懲戒処分を下すのかを検討するようにしましょう。
不正受給をしていた従業員に対して、何ら懲戒処分をしないとなると、他の従業員との関係で更なる問題が発生する可能性がありますので、どのような内容の懲戒処分を下すのかについては、十分に検討するようにしてください。
再発防止策を策定する
従業員の通勤手当の不正受給が発生した場合、会社としては、今後不正受給が発生しないように再発防止策を策定しなければなりません。
再発防止策としては、以下のようなものが挙げられます。
- 就業規則の見直し
- 通勤手当に関する管理の徹底
- 経費精算システムの導入
故意に通勤手当を不正受給する従業員もいれば、気づかないうちに通勤手当を不正に受給してしまっていた従業員もいるかもしれません。
そのようなことのないように定期的な就業規則の見直しや通勤手当に関する管理を徹底するようにしましょう。
通勤手当の不正受給を理由に懲戒解雇できるか?
通勤手当の不正受給に対する懲戒処分については、不正受給の金額、従業員の立場、従業員の故意や悪質性、これまで不正受給をした過去があるかどうか、返還する意思があるかどうかなどを総合的に考慮して判断することになります。
したがって、不正受給の金額が多い上、従業員に返還の意思がないなど反省の色がなく、悪質性が極めて高い場合には、懲戒解雇が有効となる可能性があります。
通勤手当の不正受給による解雇の有効性が問われた裁判例
以下では、通勤手当の不正受給をしていた従業員を懲戒解雇し、その解雇の有効性が争われた裁判例をご紹介いたします。
かどや製油事件(東京地方裁判所平成11年11月30日判決)と言われるもので、比較的著名な裁判例なので、この機会に知っておいてください。
事件の概要
甲社が東京都品川区にあるところ、乙は東京都品川区に居住しているにもかかわらず、栃木県宇都宮市に住民票を移し、虚偽の住所を申告し、4年半の間で231万円の通勤手当を不正受給していました。乙の行為に対し、甲社は懲戒解雇処分を下しました。
それに対して、乙が、甲社に対し、甲社の懲戒解雇が無効であるとして、従業員としての地位の確認及び賃金の支払いを求めた事案です。
裁判所の判断
本件事件に関して、東京地方裁判所は、「本件懲戒解雇が権利の濫用に当たるか否かは、代表取締役個人と乙との間の問題ではなく、乙の前記のような不誠実な勤務態度や行為に即し、甲社が乙を懲戒解雇することができるだけの理由があると認められるか否かによって判断すべき問題である」として、本件懲戒解雇が甲社の懲戒権又は解雇権の濫用にあたるということはできないと判断し、乙の懲戒解雇を有効としました。
ポイント・解説
これまで、通勤手当や住宅手当等の不正受給による懲戒解雇の有効性について争われてきましたが、本件事件は、4年半の間の過大な通勤手当を不当利得した従業員に対する懲戒解雇を有効として点で注目すべき裁判例になります。
通勤手当の不正受給で詐欺罪や横領罪は成立する?
通勤手当の不正受給に対し、詐欺罪(刑法246条1項)が成立する可能性はあります。
真実とは異なる住所等を会社に伝え、本来受け取るべき金額よりも大きな通勤手当を会社から受給していた場合には、詐欺罪が成立する可能性があります。
他方、(業務上)横領罪は会社から預かったお金を不正に使い込む場合に成立するため、そうでない場合には、(業務上)横領罪が成立しない可能性があります。
もっとも、事案によっては(業務上)横領罪が成立するケースもありますので、一度弁護士にご相談下さい。
通勤手当の不正受給を防ぐためのポイントとは?
通勤手当の不正受給が発生してしまうと、会社の資産を流出させてしまうことになります。
そのため、会社としては、通勤手当の不正受給を防ぐ必要があります。
以下では、通勤手当の不正受給を防ぐためのポイントを解説いたします。
就業規則で通勤手当に関するルールを設ける
就業規則や給与規定において、通勤手当の支給に関するルールを設ける必要があります。
どのような場合に通勤手当が支給され、支給するための要件(証拠)が必要なのかについて、明確に規定し、その内容を社内で周知するようにしましょう。
そして、従業員の住所が変更された場合には、適正な通勤経路を再提出させるなど規定も導入するようにするとよいでしょう。
領収書や定期券コピーの提出を義務付ける
通勤手当を申請するために必要なものとして、通勤するにあたり必要な交通費の領収書や定期券のコピーなどの提出を義務付けるようにしましょう。
そうすることにより、申請された通勤手当が適切なものかどうかをチェックすることができます。
従業員への教育と周知を徹底する
次に、従業員に対する教育・周知を徹底するようにしましょう。
定期的に、従業員への教育や周知を行うことにより、不正受給の防止へ繋げることができるようになります。
通勤手当の不正受給への対応や予防策でお困りの際は弁護士にご相談下さい。
通勤手当の不正受給に該当するかどうか、該当するとしてどのような処分を下すべきか、今後不正受給を防ぐためにはどのような防止策を策定する必要があるかについては、弁護士にご相談下さい。
弊所は、多くの企業様から顧問依頼を受けており、これまで多くの問題を取り扱ってきました。
弊所の弁護士であれば、不正受給をした従業員に対する対応、今後の防止策などのご提案をさせていただくことが可能です。
まずは、お気軽にお問い合わせください。
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